【2019年10月】上海地域で赴任直後の駐在員に対する就業管理に強化の動き

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2019年に入り、出入国管理違反として不法就労として指摘されるケースが複数、見受けられています。

特に日本本社が留意すべきケースとして、赴任直後の工作許可証・居留許可証(以下「両証」と表記)が未取得の段階において、駐在員の初回の給与所得の受領・個人所得税の納付をきっかけに、両証が未取得の状態である為に、不法就労との摘発を受けたとのケースが見受けられています。
 不法就労にかかる規定として「出入境管理法
[i]等が挙げられます。その罰則規定では、個人と会社にそれぞれ5000元以上、10,000元以上の罰金が科せられ、更に状況が深刻な場合での個人の勾留や会社に対する違法所得の没収等が規定されています。実際に、上記の摘発事例でも個人と会社に対し罰金が科せられています[ii] 

次に、現行における両証の取得フローを再確認します。同フローは以下の通りですが、赴任直後に取得手続きを開始したとしても、居留許可証の取得申請には中国国内の出入境検験検疫当局が発行する健康診断証明(以下「健康診断証明」と表記)の取得を始めとする要求書類の充足に一定時間を要するなど、両証の取得まで1か月以上を要することが通常です[iii]

1:通常(「外国人来華工作許可サービス指南(暫定)[iv]」等に基づく)フロー】

 

これに対して、上海市公安局は就業類工作証(1年期)窓口サービス告知票(A014)を通知し、居留許可証の早期取得を可能とすべく、工作許可証の取得に先駆け、居留証の取得後に工作許可証を取得するとの手続きフローの一部変更を容認しました[v]

2:上海市公安局の告知票に基づくフロー】

 

但し、繰り返しになりますが、健康診断証明の取得や居住地の確定など居留許可申請時に必要とされる提出書類の充足には一定期間を要します。

さらに、上記2にかかる上海市公安局の通知は、駐在員の入国から居留許可証の取得期間の短縮を可能としますが、外国人の就業には外国人工作証の取得も必須であり、不法就労との指摘を受けないためには、両証の取得が必要[vi]とされる点に、くれぐれも留意が必要です。

一方、“中国への入国後、両証を取得するまでは就業しない”との対応は容易ではない為、本件にかかるリスクの根本的な解消は困難とも考えられますが、日本本社としては、可能な限り、当該リスクの低減への対応が求められます。以下の手段によってリスクを完全に排除することは不可能ですが、少なからず軽減策になり得る可能性があり、各社の実情を勘案しつつ、導入に関する検討も一案と考えられます。

Ø 申請書類の速やかな充足の為に周到な事前準備を行う
駐在が確定している場合、駐在予定者は駐在前の出張時に健康診断を受診・健康診断証明(有効期間6か月間)を取得する、更に可能であれば住居の下見を済ませ居住地を確定するなど事前準備を周到に進め、入国後の迅速な対応により速やかに両証を取得する

Ø 労働契約書、任命書等の記載内容に留意する

労働契約書や任命書等において就業時期にかかる記載を“工作許可証及び居留許可証の取得後に現地法人における就業を開始する”旨の条項に変更し、書面上での不法就労リスクを軽減する

Ø 両証の取得後、駐在のステータスに変更する
駐在者が中国へ出国後も両証の取得までは日本本社の出張者とし、両証の取得日以降、現地法人への出向駐在者として取扱う。この場合、上記と同様に任命書等において上記の記載を行うと同時に、日本側で海外転出届の提出時期を会社で調整し(遅らせ)、また会社を納税管理人に選任する届出を行い当該駐在員の年末調整を翌年3月までに行う[vii]

 尚、本稿では、赴任直後の駐在員の取扱いに限定していますが、60歳超で工作許可証・居留許可証の取得が困難なケースなど、その他事例で不法就労として摘発され罰金が科せられるなど状況等も見受けられる状況です。
 従いまして、今後の当局による対応や、政策の変化などの情報収集を行うと共に、くれぐれも各種状況に留意し慎重な対応をお願いします。


[i]「出入国管理法」(第80条)等を参照のこと。原文URLhttp://www.gov.cn/flfg/2012-06/30/content_2174944.htm

[ii]詳細は、マイツ・」ニューズレター上海通信10月号「外国籍者の不法就労摘発強化について」を参照のこと。

[iii]規定上(「外国人来華工作許可サービス指南(暫定)」)では、工作許可証の審査は10業務日以内に完了する旨が規定されている。URLhttps://fwp.safea.gov.cn/attached/file/20170418/20170418182639_469.pdf

[iv]上記脚注ⅲのURLを参照のこと。

[v]就業類工作証(1年期)上海市公安局窓口サービス告知票(A014

原文URL: https://gaj.sh.gov.cn/crj/zwgk_page.jsp?ggbh=8000003721

尚、日本語(仮訳)は上海日本商工クラブでも閲覧可能(上海日本商工クラブ「入管の居留許可取得に関する運用について」)。
原文URL
https://www.jpcic-sh.org/news/article/newsid/2860 

[vi]「出入境管理法」(41条)により両証の取得が義務付けられている。

原文URLhttp://www.gov.cn/flfg/2012-06/30/content_2174944.htm

[vii]駐在予定者が納税管理人を選定しない場合、原則、出国までに当年の確定申告を行う。但し、1億円以上の有価証券等の対象資産の所有者は国外転出時課税制度が適用される為、納税管理人選任の有無にかかわらず国外転出時にその対象資産の含み益に所得税等が課税される等への留意が必要。詳細は以下URLを含む国税庁HP等を参照のこと。
URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kokugai/pdf/03.pdf