[2011年1月号]「社会保険法」の主役はどうなる?2011年人件費試算

  前回は、2011年7月に施行される「社会保険法」における「外国人への適用問題」について解説しました。しかし、「外国人問題」は「社会保険法」から見ればあくまでも「脇役」。今回は、「主役」である中国人従業員に視点を移して解説します。「賃金条令」による賃金の団体交渉権の行方が注目されているようですが、もしかしたら、今回の「社会保険法」の方がより現実問題として「コストアップ問題」を直撃するものとなるかもしれません。ぜひ、今回も最後までご一読ください。
  「社会保険法」を受けて各地方政府管轄の社会保険も大きな改革期を迎えています。中国における現状の社会保険制度はまだまだ発展途上。差別的な加入資格制限や、制度内で矛盾が発生するなど大きな問題を抱えています。以下、上海市で噂されている「改革案」が実施された場合を想定して、2011年度に発生し得る「コストアップ額」を試算してみます。
  上海市で噂の「改革案」は、以下の通りです。
     ● 「総合保険」「小城鎮保険」を実質的に「廃止」
     ● 「城鎮保険」が2種用意され、原則一本化される方向
つまり、「社会保険費用」が通常より割安だった制度が廃止され、高負担を強いられる保険に一本化される・・とも言えます。
紙面の都合上、詳細は割愛しますが、この制度改革が実施された場合、人件費負担が最も少なかった[外地出身・農村戸籍者、最低賃金ワーカー]で、試算してみました。
[試算1]
前提1:最低賃金、上海市平均賃金が2010年度基準と据え置きであった場合
前提2:ワーカーが受け取る可処分所得額は1,120元
     2010年度:本人手取額社会保険料総額≒ 1,387
     2011年度:本人手取額+社会保険料総額≒ 1,794元 (406/月増
     ※ 個人所得税は、所得控除額が2,000元のためゼロ
最低賃金のワーカー1人当たりの会社負担額が、月額[約406元]のコストアップとなります。ワーカーが受け取る可処分所得額は1,120元の[同額]でありながら、、です。
しかし、上記[前提1]は実際にはあり得ません。2010年度はリーマンショックからの景気回復を受けて平均所得額は2009年当時から比較して大幅に増加しています。よって、社会保険納付額を算出する[基数]の基となる「市平均賃金」、そして「最低賃金」も2011年3月頃には引き上げられることは確実です。ここ3年の平均賃金・最低賃金の伸び率は8~17%で推移しています。仮に15%ずつ上昇した場合を想定して試算してみます。
[試算2]
前提1:最低賃金、上海市平均賃金が15%上昇
     2011年度:本人手取額+社会保険料総額 2,063 (2010年比:675元/月)
  2010年度に最低人件費[1,387元]だったコストが、2011年には[2,063元]にまで跳ね上がってしまう可能性があります。1人当たりの月額コストが前年比[1.49倍(約50%増)]となる計算です。この改正案は現段階ではまだ噂に過ぎませんが、当局担当者が企業の人事担当者向けの研修において「問題はいつから開始されるかだけ」と公言している内容です。もはや安い労働力を求めるための中国市場とは言えない環境となっているのかもしれません。