2010年10月28日、全国人民代表大会常務委員会は「社会保険法」を公布しました。
同法は中国における社会保険制度の基本法として位置付けられており、2011年7月1日から施行が予定されています。10月末に日本の「日経新聞」でも『中国、外国人にも社会保険』『進出企業の負担増』と大きく取り上げられました。今回は、中国の社会保険法と外国人への適用について、「義務化か否か」と「二重加入問題」についてご説明いたします。
まず、「義務化」の問題についてです。「社会保険法」において、外国人への加入について触れられているのは、実は1条のみで、わずか23文字分しかありません。
● 第97条:中国国内に在住する外国人が就業する場合、本法の規定を[参照]して社会保険に加入する。
[参照]という微妙な表現がなされています。また、第95条には、このような条項があります。
● 第95条:都市で仕事している農村居民は、本法の規定に従って[依照]、社会保険に参加する。
中国人弁護士に意見を求めたところ、『[依照]は[義務]と読み取れる。[参照]はまず加入することになりそうだが、[義務]とは読みきれない』と説明してくれました。
また事務手続き上、中国の身分証明書を持たない外国人が全中国において社会保険に加入できるシステムができていない背景も無視できません。よって、当面は地域ごとの地方性法規(細則)によって細かく規定されてくる可能性が考えられます。施行は、2011年7月からで、それまでに詳細が明らかになると思われます。
次に、「二重加入問題」についてです。この点については、中国国内でも「社会保険法」が公布された10月28日に、人力資源社会保障部の胡暁義副部長が記者会見で発言した内容が報道されています。
● 胡暁義副部長の回答(要約):
『中国で就業している外国人に対する社会保険加入に関する規定は、[国際的な慣例]であり、増加傾向を
たどる就業外国人に国民待遇を付与するものである。二国間関係に及ぶ場合は、双方の合意により関係
する問題を解決することが出来る。ドイツと中国は既にそのような関係にある』
国際間の「二重加入防止」のために、『社会保障協定』という国際間協定が存在しています。この協定を両国間で締結していれば、原則として「役務提供している側の国(中国)で社会保険に加入すること」になります。日本の社会保険庁HPによると現在日本がこの協定を締結し発効しているのはアメリカなどの10カ国。準備中などを含めても19カ国しかなく、日中間ではこの社会保険協定は締結されていません。よって、胡副部長の発言どおり[国際的な慣例]であることは間違いありません。今後、中国側が外国人にも社会保険が加入できるシステムが整備されれば、現状では「二重加入」が発生してしまうことになります。
しかし、中国の社会保険は「本人のみ」の加入です。扶養家族は対象となっていません。また、医療保険なども中国国内基準の治療について対象となりますので、外国の薬、治療法には適用されません。日中間の「社会保障協定」が締結され「二重加入」は避けられたとしても、長期間に渡って赴任している駐在員がリスクを負ってしまうことにもなりかねません。社会保険についても今後の動向から目が離せなくなってきました。