【2023年2月】中国税務当局による税務調査強化の動向 

 

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コロナによるロックダウン、経済活動に対する厳しい制限が長期化していることを背景に、中国政府は失業者、中小企業、特定業種の企業(甚大な影響を受けた)を対象に大規模な減税を行った結果、深刻な税収減の状況に陥りました。中国財政部の発表によると、2022年1月〜9月の財政収入は15兆元、財政支出は19兆元、財政赤字は4兆元(80兆円相当)に上ったことが分かりました[1]。財政赤字を補填するために、2020年に1兆元の特別国債を発行したのに続いて、中国財政部は2022年12月に7,500億元の特別国債を発行すると発表しました。このような厳しい財政状況を背景に、上海だけではなく、中国税務当局は税務調査を強化している動きを見せています。

1. 移転価格に関するモニタリング能力の向上

国家税務総局の指示の下で、上海市、広東省、浙江省、江蘇省等の国税局は2022年7月から、ローカルファイルを提出した企業を対象に、従来、求めていなかったデータの提出を要請していました。通常のローカルファイル内容より、一歩踏み込んで、バリューチェーンにおける上流企業(仕入先)及び下流企業(顧客)の利益金額、利益率が求められているのが注目点です。移転価格調査リスクに繋がるこれらのデータについては、これまで、アクセス権限がないとして、提出を控えて対応することが一般的ですが、「税務調査通知書」や「税務事項通知書」が交付されていないにも関わらず、強引にデータを求めている現状は移転価格に対するモニタリング能力を更に高めようとする中国税務当局の努力が反映されています。

2. 一般税務調査の活発化

コロナの関係で人員移動が大きく制限されている中、中国税務当局が力を入れているのは「税務事項通知書」の交付による自己調査です。対象企業に「税務事項通知書」が交付され、15日以内に自己調査報告書の提出を求められています。

特定指摘事項の記載のある場合 特定指摘事項の記載のない場合
調査項目、対象年度 例:2019年〜2021年の交通手当に係る個人所得税の申告漏れ 2019年〜2021年の納税状況
自己調査報告書の内容 1.  指摘事項に対する調査結果

2.  エビデンス資料

3.  修正申告表及び追加納付税額

1.  自己調査の結果

2.  エビデンス資料

3.  修正申告表及び追加納付税額

自己調査報告書の提出 現場提出、メール提出、e-tax提出 現場提出のみ

 

必ずしも、すべて税金を追加納付しなければならないわけではありませんが、税務当局に税金ノルマがない場合、当局の指摘事項にデータを持って、的確に説明できる自己調査報告書の説明力がポイントとなります。税務当局に税金ノルマがある場合、いくら説明しても、認められる可能性が低いので、当局が合意できる少額を支払って、妥協するのが現実的な対応と言えるでしょう。

[1] http://gks.mof.gov.cn/tongjishuju/202210/t20221025_3847842.htm

 

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