【2022年5月】上海市ロックダウンの現状と日本本社の役割

PDF版はこちら → China Info JPマイツ通信 2022年5月号

 

上海市では3月28日に浦東・浦南及び隣接する区(以下“東部地区”と表記)のロックダウンの開始後、本稿執筆時点[i]においても完全な解除の目処が立たない状況です。後述の通り、各種の深刻な影響が生じると共に、日本本社として、ゼロコロナ政策の継続を前提とした子会社に対するリスクマネジメントと、サプライチェーンの分断を回避すべく、中国事業体制の再確認・再検討が必要と考えられます。

 

  1.  上海市ロックダウンの概況
    まず現在、どのようにロックダウンが実施されているかを簡単に説明します。
    封鎖は、居住エリア(“小区”と呼ばれるマンション群、団地等の区画エリア)ごとに感染者の発生有無により3段階に分類管理し、低リスクのエリアから解除を進めますが、PCR/抗原検査が繰り返される中、感染者が発生した場合、当該居住エリアでは、“①封控区(封鎖コントロール区、右図参照)”の隔離措置を再開、と振り出しに戻ります。

 

この“ゼロコロナ政策”の下、当初の封鎖予定期間(東部地区(3/28~4/1)、西部(浦西)地区(4/1~4/5))を大幅に超過し、依然ロックダウンが継続する状況です[ii]

 

ロックダウンにおいて、深刻な状況の一つに食料の確保が挙げられ、当局からの配給状況に差異が生じました。駐在員の場合はサービスアパートメントに居住する例も散見されますが、当該管轄は一般居住区の所謂 “街道”ではなく、(ホテルなどの)“賓館区”に分類され、(居住ではなく宿泊と看做され)全く配給が受けられない事態も見受けられました。またオンライン購買はアクセスオーバー・配送問題が生じ、一般居住区でも物々交換やマンション内での団体購入等々により必要物資を入手するなど、個人差があるものの深刻な状況も生じており、下述の上海商工クラブ実施のアンケートに“会社で食料品を調達して従業員に配達した”、またメンタル面でも“終了の先行きが見えず、精神的にも厳しくなっている”との回答もある程でした。

 

一方、上海市政府は、ロックダウンの解除や企業活動の再開に向けて動き出し、4月16日付け「上海市の工業企業の操業再開における防疫対策の手引き(第1版)[iii]」等により再開に向けた施策を打ち出しました。これに先駆け、工業と情報化部の特任チームが上海市入りし、優先的再開を許容した重点企業ホワイトリストを作成、集積回路や自動車製造を始めとした当該 “ホワイト企業”の優先的再開が認められ、4月20日時点で当該666社のうち403社、22日のプレスカンファレンスでは約70%の操業再開[iv]が報じられています。
また、ロックダウンの解除についても、4月22日に、隔離対象外の地域での感染が一定基準まで抑制されればとの条件の下、段階的に解除すると発表する等の方針も打ち出され始めました。

尚、上海市税務局は、月次/四半期税務申告(3月度及び4月度分、すなわち4月月初申告分及び5月月初申告分)の531日までの期限延長を公表しました[v]。一方で、企業所得税の確定申告(5月末期限)、年度報告(6月末期限)など他の行政手続きの期限延長は現時点では公表されていません。くれぐれもご注意ください。

 

  1.  上海市ロックダウンに関する日系企業・駐在員の動向

上記の厳格なロックダウンの実施の影響は、“上海市封鎖による事業への影響に関するアンケート結果”(上海商工クラブ実施・公表2022年4月15日)[vi]から抜粋した以下の状況等にも顕著に表れています。

上記の通り、“ヒト・モノ・カネ”の全てに影響が生じる中、更にロックダウンにより“顧客への納期の説明ができない”、“製品の生産納入ができず、他地域の同業者にシェアを奪われ始めた”等のビジネス上の深刻な影響を反映した回答も見受けられます。

 

  1. 日本本社として求められる短期的・中長期的マネジメント

ロックダウンの影響は上海市だけに止まりません。上海市を支援すべく、蘇州など近隣地区では多数の医師や工事現場の作業者などの派遣や食料支援等を行っており、手薄になった医療体制を鑑み、居所からの外出に24時間以内のPCR検査報告書の提示が求められるなど、既に周辺地区を含め大きな影響が生じています。

今後、ゼロコロナ政策の継続を前提にすれば、他地域でも同様にロックダウンが実施される可能性は排除できず、日本本社としては、上海市の例に基づけば、告知期間が殆ど設けられないとの前提で、ロックダウンを含む厳格な感染抑制政策に対して、中国全拠点の従業員の保護やサプライチェーンの確保が必要となります。

 

日本本社として、適時の情報提供体制の構築や各種判断基準(駐在員、家族の国外退去要否を含む)の策定、各種物資の現地法人での備蓄など、事前に備えるべき対策は必須です。しかし、今回のように一旦、ヒト・モノ・カネの動きが隔絶されてしまえば現地法人や駐在員・現地スタッフの自律的対応が求められます。従い、今後、現地法人がBCP(Business Continuity Plan:緊急時企業存続計画或いは事業継続計画)[vii]に準じた対策が講じられるよう、日本本社としてその構築支援が望ましいと考えられます。

中長期的に見た場合、改めて、中国事業の安定的運営に向けた事業体制の確認・見直しが必須であり、また現地法人の果たすべき役割、現状の機能やリスクの再確認に立ち返るケースもあるでしょう。中国拠点(の一部)が閉鎖した場合でも、他の拠点をも含めた緊急避難・短期のサプライチェーンの確保は上記BCPにも通じますが、今後、中長期的に見た中国における各種事業の再編の検討も、必要に応じ、日本本社に求められると考えます。

 

[i] 本稿は2022年4月25日時点までの情報を反映。

[ii] 尚、上海市の居住エリアごとの3段階区分リストは、上海市政府HPに掲示、更新中であり、下記URLの通り。

URL: https://www.shanghai.gov.cn/yqfkzccs/index.html
尚、居住エリア(小区)単位から建物(楼棟)単位での封鎖管理に緩和予定との情報も見受けられるが、当局の正式発表は無い。

[iii] 同手引き(第1版)の図解が上海市経済と情報化委員会HPに掲載されており、下記URLの通り。
URL: https://www.sheitc.sh.gov.cn/zxxx/20220418/9afc0a729e1c45fea9162be9a6ec15c3.html 

[iv] 原文(上海市民が関心のある問題について、関連部門が解放日報記者の質問に回答)は下記URLの通り。
URL:https://www.shanghai.gov.cn/sjzccs/20220422/06b7f19c9e3444aab82f3b15e037603b.html
各プレスカンファレンス詳細は右記URLの通り。URL:http://www.scio.gov.cn/xwfbh/gssxwfbh/index.htm 

[v] 原文は右記URLの通り。URL:http://shanghai.chinatax.gov.cn/xxgk/tzgg/202204/t462595.html

[vi] 同結果の概要・個別回答は上海商工クラブHPの右記URLにて閲覧可能。URL:https://jpcic-sh.org/news/article/newsid/3375 

[vii] BCPに関しては、経済産業省の右記URLを始め、各種情報をご参照願いたい。URL: https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/

 

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