【2021年10月】Withコロナ 駐在員の個人所得税に 直接的な影響ある重要規定②

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近年、中国政府は各種政策を通じ外資企業の選別を進めていますが、外国籍人員の従業に対しても同様の傾向を強めています。このような背景を受け、駐在員及び日本本社にとり、税務上、多大なインパクトが生じ得る重要規定・最新動向を2回に亘り説明しています。

前回(JPマイツ通信20208月号)[i]では、現行、暫定的に許容されている「年一回賞与に対する取扱い」や「外国籍人員に対する優遇措置」が202211日以降、新ルールに一本化され、大幅な増税となる当該優遇措置の廃止をご紹介しました。 2回目となる本稿では、高級人材への個人所得税の還付政策を取り上げます。当該還付政策は現在一部地域に適用されるに止まりますが、前回とは対照的に大幅な減税効果をもたらします。

 

1.      政策背景

近年、中国国内の就業の安定と高度人材の積極的招聘を進めたい中国では、就業する外国籍人員に対しても選別化の傾向が見受けられます。ビザ制度では、20174月以降、外国籍人員に対して分類管理を行い、A類などの高度人材には高い利便性を供与する一方で、C類(補助的・臨時的)人材へのビザ発給のハードルを上げています。税制面でも、20221月以降の外国籍人員全般に対する増税の一方で、下述の財税「201931号の通り、高度人材への税制優遇の享受を通じた積極的招聘を図るなど、対照的な政策が採られています。

 

2.    優遇税制

次に、優遇税制ですが、制定レベルが中央規定と地方規定に大別されます。下記(1)は中央政府の規定下で導入された優遇措置ですが、同様の措置が各地で採られています。

(1)   中央レベル規定:大湾区・珠江デルタ(グレーターベイエリア)

改正「個人所得税」の施行直後の20193月に、財政部・国家税務総局の連名通知として公布された「広東・香港・マカオ大湾区(グレーターベイエリア)の個人所得税優遇政策に関する通知」(財税「201931号)[ii]を受けて、広東省及び省下の広州市、深セン市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市の各都市が地方法規を公布しました。

高級人材の対象範囲は地域により多少の差異はありますが、概ね、外国人工作証A類の該当者に対し、対象者の課税所得の15%超の税額部分に対して財政補助が支給され、当該補助金所得は個人所得税を免除しています。

 

 

(2)   地方政府レベル規定:
日系企業が多く進出する地域から以下を抜粋します。

    上海市
上海市では、国発201915[iii]や?委発「202022[iv]等の後、財政補填による税額還付を通じて対象となる海外人材に個人所得税率15%を適用するとの検討を進めています。関連実施細則が公布されるとの見解もありましたが、本稿執筆時点では未公布の状況です。しかし、既に上海自由貿易区内の臨港新区で一部、当該還付政策の試行が開始済とも公表されており[v]、本政策の対象地域が拡大されれば、日系企業を含む外国籍人員の税負担の大幅な低減が見込まれます。

    江蘇省
江蘇省では20116月に公布・施行の「江蘇省海外高度人才居住証制度暫定弁法」[vi]を受けて、当該弁法に基づく対象者に対し、蘇州市や無錫市[vii]、南京市[viii]等の各地方法規に基づき、還付税額政策が制定され、本稿では蘇州市を取り上げます。
蘇人保開「202118[ix]により、2020年度(202011日—20201231日)において個人所得税額の40%を奨励金として還付すると定めています。
同政策は「蘇州市高度人才奨励計画」の実施期間20202022年)において毎年状況を見ながら奨励策を実施するとしています。本年は(81日—)825日に税額還付の申請期限が到来済ですが、昨年の申請期限も831日であり、来年も同時期となる可能性が高いと考えられます。

 

3.    留意事項

本政策は各地方政府の政策に基づき、適用対象者の範囲や全額還付額を含む各規定や実務運用には差異が生じる為、対象地域での情報収集が肝要となります。また蘇州市を例にとれば、税額還付の申請受付期間は例年短期間で終了する為、申請時期の確認・留意も必要です。

更に、日系企業の駐在員に対しては“手取り保証”を採用し、日本本社が個人負担分も含めて、会社負担としている例が一般的と思われます。一方、当該還付政策は、納税者である駐在員個人に対して還付される為、当該還付金の会社への返還を前提とされる企業が多いと思います。但し、税務当局の見解として、本還付はあくまでも個人に対するインセンティブとして会社への返還に対して難色を示すケースがあるとも聞き及ぶなど、当該還付政策の利用時には還付金の取扱いを社内で事前検討・決定し、必要に応じて、所在地の実務運用を確認する必要がある点には留意が必要です。


[i] JPマイツ通信及び過去のニュースレター(各マイツ通信ほか)は下記URLの通り。

URL:https://myts.co.jpcategory/newsletter/ 

[ii] 財税「201931号の原文は右記URLの通り。URLhttp://www.chinatax.gov.cn/n810341/n810755/c4148969/content.html

[iii] 国発201915号の原文は右記URLの通り。URLhttp://www.gov.cn/zhengce/content/2019-08/06/content_5419154.htm

[iv] 規定名称は“中共上海市委上海市人民政府?于新時代上海実施人才引領発展戦略的若干意見”。

[v] 詳細は2021414日開催プレス発表会での臨港新片区管委会専職副主任・趙義懐氏の発言(下記URL)をご参照願いたい。

 URLhttp://www.scio.gov.cn/xwfbh/gssxwfbh/xwfbh/shanghai/Document/1702184/1702184.htm  

[vi] 6条に同暫定弁法で定める“高級人材”の定義がある。同暫定弁法の原文は下記URLの通り。

URLhttp://www.jiangsu.gov.cn/art/2011/6/30/art_46797_2680641.html

[vii] 無錫市の関連政策の原文は下記URLの通り。尚、当該申請については“企業経由で地区人事社会保障部門に申告し、各地区は530日までに市人事社会保障局に提出する”と定められている。
URL
http://www.wuxi.gov.cn/doc/2021/03/16/3223923.shtml 

[viii] 南京市の関連政策の原文は下記URLの通り。尚、南京市の申請期間は2021419~2021520日。
URLhttp://rsj.nanjing.gov.cn/njsrlzyhshbzj/202104/t20210420_2889898.html

[ix] 蘇人保開「202118号の原文URLは右記の通り。URLhttp://www.wjhr.net/Information/Read.aspx?id=7094

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