【2019年12月】租税協定による優遇待遇享受の 手続きがより一層簡素化に

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国家税務総局より20191014日付け「『非居住納税者が協定待遇を享受するための管理弁法』の公布に関する公告」(以下「2019年第35号公告」と表記)が公布され、202011日から施行されます[i]。これに伴い、現行規定(2015年第60号公告等)は同日付けで廃止されます[ii]

これにより、非居住納税者が租税協定待遇を享受する際に、下表1のとおり、税務当局に対する事前審査・届出方式を廃止した2015年第60号公告から更に手続きが簡素化され、非居住者自身が原則、「自主的に判断し、享受を申告し、検査に備えるために、関連資料保管する」との方式へ変更されます。 

【表12019年第35号公告の施行に伴う、主要な変更項目】

変更項目

2015年第60号公告

2019年第35号公告

管理方式

自主判断、自主申告、事後管理

自主判断、自主申告、事後管理

免税措置を享受する際の手続方法

及び

関連資料

免税享受時の要提出資料

ü  「非居住納税者の居住者身分情報報告表」

ü  「非居住納税者による租税条約の恩典享受に対する状況報告表」

ü  協定締結相手方の管轄税務機関より、納税申告又は源泉徴収申告の前に暦年が開始以後に交付された居住者身分証明書

ü  取得所得の所有権の証明書類(例えば契約書、協定書、董事会、又は株主総会決議、支払伝票等)

ü  その他の租税法規で要求される非居住納税者が租税条約の恩典を享受する為或いは国際運輸業に関する協定の優遇措置を享受する為に提出が必要となる証明書類等

免税享受時の要提出資料

ü  「非居住者納税者の協定待遇の享受に関する情報報告表」

税務当局の検査に備えた要保存資料

ü  協定締約相手方の税務管轄当局発行の、非居住納税者の所得取得当年度又は前年度の税収居住者身分証明等

ü  取得所得の関連契約書、協議書、董事会又は株主会の決議、支払証憑等

ü  配当、利息、特許権使用料条項の協定待遇享受時の「受益所有者」身分の証明資料等

2019年第35号公告による手続きの簡素化は、決して税務当局による納税徴収管理の緩和を意味しません。非居住者、源泉徴収義務者は税務当局の事後管理に協力しなければならず、また過少納付・脱税に対する処罰も明記されています[iii]。更に、同公告において非居住者に要求される「非居住者納税者の協定待遇の享受に関する情報報告表」にかかる実務詳細も不明です。従いまして、今後の補充通知の可能性と共に、同公告の施行後、慎重に本件の実務運用を注視すべきであり、ご注意ください。

また、2019年第35号公告に関連する、その他留意事項は以下の通りです。

【留意事項1】 日中租税条約と同率の源泉所得税への対応

現在、日本本社など非居住者企業が配当や、利子、使用料を中国現地法人から受領する際、源泉所得税率10%が適用されますが、同税率は日中租税条約(第10条~第12条等)[iv]で規定されると同時に、「企業所得税法実施条例」(第91 条)等による軽減税率とも同一です。“日中租税条約の適用を受ける”との観点では2015年第60号公告等による申告が必要となりますが、「企業所得税法実施条例」等の適用税率も10%であることから、現状の実務運用では、同申告は要求されていません。この点について、20201月以降の実務運用の注視が必要ではあるものの、現在の実務運用の状況を鑑みれば、2019</sp an>年第35号公告の施行後も、上記の租税条約の享受を前提とした関連資料の作成・保管が要求される可能性は低いものと考えられます。

一方で、中国現地法人(Ex.日本本社の孫会社)から香港法人(Ex.日本本社の子会社)に配当する場合など、中国・香港間での租税条約により、源泉所得税率10%よりも低率での適用を受ける場合には、2019年第35号公告に則った対応が要求される旨、留意が必要です。

すなわち、非居住者として2019年第35号公告に基づき自主的な関連資料を保管すべき状況に、以下等が含まれます。

Ø  短期滞在者(日中租税条約第15条)に基づく、所謂183日ルールにかかる免税措置の享受

Ø  恒久的施設/PE(日中租税条約第5条)に基づく、事業所得にかかる免税措置の享受

【留意事項2】 外貨管理関連規定の今後の改正動向の注視

現在、国家税務総局、国家外貨管理201340[v]等により5万米ドル超の対外支払い時には、税務当局押印済みの対外支払い税務届出表の提出が要求され、海外送金前に増値税等の関連税金を納付したとの納税証明書か、立替送金時などに発行される免税証明のいずれかの事前取得が求められています。

しかし、2019年第35号公告は企業の自主判断、自主管理等による一層の簡素化を進展させており、201340号公告との乖離が見られます。今後、外貨管理局が“「放管服」改革の深化”を進めるとの2019年第35号公告との整合を図るのであれば、当該サービス貿易取引にかかる送金実務についても同様に、一層の手続きの簡素化を図る方向に改正される可能性も考えられますので、今後の改正動向の有無への注視も必要です。


[i]2019年第35号公告に関する解説は、「上海通信」(2019年12月号 Vol.346)をご参照願いたい。

2019年第35号公告の原文URLは下記を参照のこと。URL:http://www.chinatax.gov.cn/chinatax/n810341/n810755/c5138275/content.html

[ii]2015年第60号公告の原文URLは下記を参照のこと.。      

URL:http://www.gov.cn/gongbao/content/2016/content_5038098.htm 

尚、2018年第31号公告により、2015年第60号公告(第4条)で規定する「非居住者の納税義務に対する徴収管理は(国家税務局或いは地方税務局から)税務局が負う」旨へ変更されていたが、当該項目も2019年第35号の施行と同時に廃止される。

[iii]2019年第35号公告の第15条、第16条等を参照のこと。

[iv]日中租税条約の原文URLは下記を参照のこと。

URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/A-S59-223_1.pdf 

[v]国家税務総局、国家外貨管理局201340号公告の原文URLは以下の通り。

URL: http://www.safe.gov.cn/hubei/2019/0428/938.html