【2022年10月】管理職から一般労働者への職位の変更は、侮辱的な異動と言えるのか?

 

 

 

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1 管理職から一般労働者への職位の変更はトラブルになることが多い

中国では、職位(業務内容や責任を含む言葉です。中国語では「岗位」)の変更(「調整」とも言います)には原則として対象従業員の同意が必要であると言われています。そのため、管理職から一般労働者への異動については、「私は同意しない」と言って拒否することが多いのです。

もっとも、意欲や能力に欠けている者をいつまでも管理職に置いておく事もできないため、中国労働法も原則を修正し、一定の場合は同意の無い職位の変更を認めております。

本件では、会社の職位変更が有効と認められた事例をご紹介致します。

 

2 裁判例

(1)事例

朱は2011年3月14日に珠海にある会社に入社し、会社は2015年12月1日に朱をリザーバー製造部門のチームリーダーに任命しました。

2016年2月20日、会社と朱は、契約期間を2016年3月14日から2021年3月13日、職位を管理職とする内容の雇用契約を締結しました。

2019年12月、会社は朱の職位を調整し、朱を管理職から一般労働者に調整し、職位調整後の給与は同額としました。

2020年1月、朱は、会社が本人の同意なく一般労働者に職位を調整したため、退職し経済補償金の支払いを求めました。

なお、朱の退任前12ヶ月間の平均給与は、8,043人民元でした。

 

(2)一審・二審・再審判決

一審・二審・再審は、会社が朱の職位を調整した行為は、雇用自主権の合法的な行使であると判断しました。以下内容を要約します。

「広東省高級人民法院と広東省労働人事紛争仲裁委員会が労働人事紛争案件を審理する際のいくつかの問題に関するシンポジウムの議事録」第22条は、「使用者が労働者の職位を調整すると同時に以下の状況に該当する場合、使用者は合法的に雇用自治権を行使したとみなされる」と規定している。具体的には「 (1)労働者の職位調整が使用者の生産・運営に必要である、(2)職位調整後の労働者の給与水準が基本的に元の位置と同等である、(3)侮辱的・懲罰的でない、(4)その他法令に反する事情がない場合、雇用契約を解除し経済補償を使用者に要求してはならない」と定めている。

この事件では、朱は、職位調整後の労働者の給与水準が基本的に元の地位と同等であることを確認し(上記(2))、会社は、朱の職位調整は会社の組織構造の再編によるものであると主張し、朱はこれに反論しなかった(上記(1))。さらに、会社による朱の職位調整が朱の人間的尊厳を侮辱したことを示す証拠はなく、第一審は朱の主張を認めないこととした(上記(3))。

したがって、会社が朱の職位を調整した行為は、合法的な雇用自主権の行使であり、会社が朱の勤務位置を調整したことが法律に違反するという朱の主張は法的根拠がなく支持しない。

 

3 実務上の留意点

この事例は広東省のものですが、このような①経営上の必要性がある②賃金を維持している③侮辱的懲罰的な異動ではないという職位調整の有効要件は概ね中国の主要都市の裁判所で適用されております。会社から「問題のある管理職の賃金を大幅に下げたい」「仕事から徹底的に外したい」というご要望を受けることはあるのですが、実際は賃金を維持しても管理職から一般労働者に変更するだけでも退職することが多く、まずは話し合ってその上で折り合えないのであれば、管理職から一般労働者に異動(降格)させることをお勧めしています。

 

案号:(2021)粤民申2633号(当事者仮名)