PDF版はこちら → 人事労務通信 2022年8月号
世界各国の法律体系には、ほとんど「時効」という概念が設けられています。「時効」とは、法律によって定められた期間を経過することによって、権利や法的な状況が変動する制度を指します。近年、凶悪犯罪者が時効を乱用し、罪を免れることを防止するために、刑事分野で時効を廃止する動きがみられますが、民事分野では、権利主張の促進や、社会資源の無駄利用を防ぐために、リスク管理や訴訟の段階で、時効が重視されています。
中国の労働法分野でも、時効の概念が規定されています。ただし、民法分野の「平等や当事者」と比較し、労働法分野では、以下の特徴があるため、時効の設定も民法と異なります。
- 労働法分野では、労働者側が法的知識面も、情報面も、企業側より劣る傾向がある。
- 労働法分野では、権利侵害行為が一度きりではなく、長期間継続する傾向がある。
中国労働法分野で、よく見られる時効の概念を、以下のようにまとめさせていただきます。
- 仲裁時効
法律では、労働関連の紛争について、裁判所に訴訟を提起するために、労働仲裁を受けなければいけないと定めています。「労働争議調解仲裁法」では、労働仲裁の時効は1年間とし、時効は当事者が権利侵害されたと分かった日からカウントすると定めています。
また、法律は労働者が雇用期間中に、雇用者より立場が弱いことを懸念し、特別に時効を除外する規定も設けています。雇用期間中に給与支払不足、社会保険納付不足があった場合、1年の時効が適用されず、権利侵害される時点に遡り、損害弁償の請求が認められます。労働者が離職後1年間以内に、給与支払不足、社会保険納付不足について、雇用者に権利を主張することができます。
実務では、時効中断が有効かと争うことがよくあります。労働者が雇用者、政府機関に権利主張する場合、または雇用者から義務の履行を約束した場合、時効が中断すると法定されています。このため、離職した後でも、毎年会社に利益を主張する手紙を出す従業員がいます。
- 訴訟時効
労働仲裁の結果に不服がある場合、労働者または雇用者が15日以内に、裁判所に訴訟を提起することが法定されています。
- 労災の申請時効
労災が発生する場合、雇用者が事故発生日、または職業病と診断された日から30日以内に、労働保障行政部門に労災認定を申請しなければなりません。雇用者が労災申請しない場合、労働者本人、親族、または労働組合が事故発生日、または職業病と診断された日から1年間以内に、労災認定を申請することができます。
一部日系企業では、残業代計算が法定と異なる方法で運用されています。「最大2年間分弁償すればいい。」と理解している担当者もいます。上記説明したように、残業代計算不足は、給与支払不足に該当するため、時効が適用除外されています。