中国「労働契約法」では、「会社は労働者が労働契約と直接関係のある基本状況を把握する権利を有し、労働者は如実に説明すべきである」と規定しています。多くの会社はこの規定に基づき、労働契約書や就業規則に「従業員は履歴書や求職登記表に記入する情報が本人の実情報と一致しない場合、会社は当該行為を不誠実行為とみなし、当該従業員を解雇することができる」と規定を盛り込んでいます。
確かに会社側が要求する情報に対し、故意に隠蔽したり偽りの情報を提出したりする従業員は恐らく自分の利益を求めようとしており、会社との信頼関係を崩壊させてしまいます。ただしこれらの虚偽を理由として、従業員を解雇することは法律と照らし合わせて許されるのでしょうか。
2012年、王さんはある会社と2012年9月17日~2014年11月16日までの労働契約を締結しました。「応募者が申請表にて提出する個人情報・勤務履歴に偽りがある場合、会社は雇用を中止し、労働契約を即時解除することができる」と明確に記載された求職登記表に、「既婚」「子持ち」と記入しました。
2014年2月、王さんは健康診断を受け、初回妊娠だと判明しました。王さんは会社に初回妊娠を伝えると、会社は2014年4月8日に、個人情報を偽ったことを理由とし、労働契約を解除しました。
王さんは、自分の出産情報を偽った理由は、出産差別を避けるためであり、悪意の詐欺ではなく、且つ会社に損害を与えていないと主張し、労働仲裁を提起し、労働契約の回復を要求しました。会社側は労働契約や就業規則などに、偽りの個人情報を提出する従業員を解雇すると明確に規定したので、王さんの行為は会社の信頼を裏切り、労働契約の解除は違法ではないと抗弁しました。労働仲裁では王さんの要求は認められず、王さんは一審に提訴しました。
一審裁判所では、会社と労働者はお互いに真実の情報を相手に告知する義務があると判断し、本件の焦点は、出産に関する情報は告知義務に該当するかどうか、真実を告知しない場合の法的結果に絞られました。裁判所は以下を理由とし、王さんの行為は詐欺行為に該当せず、会社の労働契約解除を違法だと判定しました。
労働契約法で定められる「労働契約と直接関係のある基本状況」とは労働契約の履行に実質的な影響を持つ事項であり、一般的には労働者の個人身分情報、労働者の労働能力、技能熟練度を反映できる履歴、推薦書、資格証明、健康証明等を指す。労働契約法で会社に労働契約を解除する権利を付与したのは、労働契約の締結段階で労働者の真実でない情報が詐欺行為に該当した場合のみである。本件では、会社側も労働者の出産情報は採用可否と関係せず、会社は子持ちだから採用したわけではない。婚姻・出産情報は労働契約の履行と明確な関係がなく、プライバシーである。このため、王さんの行為は詐欺行為に該当せず、会社は労働関係を回復すべきである。
上記のように、会社に明確な約束や規定があっても、従業員が提出する情報に労働契約の履行と直接的な関連がなければ、それを理由として従業員を解雇することは法的リスクがかなり高いと思われます。