【2017年10月】タイムカードの一度の身代わり打刻で解雇は可能か?

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 1 出退勤記録の身代わり打刻

残念ながら日系企業においても、タイムカード等の身代わり打刻は行われることが多いです。遅刻するのであれば正直に遅刻をしたと言えば良いと思うのですが、一部の方は同僚に依頼をして身代わり打刻をしてしまうようです。ちなみに指紋認証方式による勤怠システムでも身代わり打刻を行っていた事案がありました。指紋認証方式では指紋が反応しない場合に備えて複数の指紋の登録を義務付けることがあり、その際同僚の指を登録して、同僚の指を身代わり指紋認証に使用していました。

2 裁判所の判断

(1)事案

希捷公司に勤める王さんは同僚に依頼し、タイムカードを自分の代わりに打刻させました。但し、身代わり打刻が発覚したのは一度きりです。希捷公司は、タイムカードの身代わり打刻は就業規則の重大違反であるとして王さんに対し即時解雇を行いました。

希捷公司の就業規則には解雇事由として「タイムカードの身代わり打刻」が挙げられており、王さんは入社時、この就業規則を確認した旨サインをしており、かつ「従業員問題行動例分析」という冊子を受け取り、その冊子の中にタイムカードの身代わり打刻は解雇となる旨の説明がありました。

(2)判断

江蘇省人民法院は一審、二審とも解雇を有効と判断しました。

企業には独自のルールを定める規則制定権があること、希捷公司が身代わり打刻を行った場合は解雇とする旨を様々な形で通知をしていたこと、希捷公司に経済的な損失は生じてはいないものの製造業工場では勤怠管理を厳格に行う必要があることを理由として解雇を有効と判断しました。

3 実務上のポイント

(1)労働者保護より信賞必罰

「中国は労働者を保護し過ぎである」「中国では解雇はできない」とは、よく日系企業総経理の方が仰る言葉です。しかし、私の実感からすると中国では解雇が有効になることも多いです。つまり、裁判所は労働者を原則として保護しますが、不正行為や一線を超えた職務怠慢行為については、厳しい処罰をして解雇をしたとしても有効と判断することも多いのです。裁判所の判断は韓非子の「信賞必罰」に影響を受けている印象があります。

(2)就業規則の重要性

「一度の身代わり打刻で解雇とは若干厳しすぎないか」と思うところもありますが、上記裁判所は、就業規則制定権は会社にあり、ある程度その内容を自由に定めることが出来る事、その内容を周知していたことから一度の身代わり打刻による解雇を有効と判断しました。「信賞必罰」の中国では、就業規則はとても重要な役割を果たしております。