中国では会計年度は1月1日~12月31日に統一されています[i]。また日本では、会計監査人による監査(所謂“法定監査”)は「会社法」(平成17年7月26日法律第86号)[ii]の資本金5億円以上等の大会社や「金融商品取引法」[iii]の適用対象である上場企業などに要求されますが、中国では全ての外商投資企業に対して、外商投資法施行後の現在においても会社法や実務運用の観点から、会計監査が依然として求められます[iv]。従って、中国現地法人では毎年3月~4月頃、会計士事務所より監査報告書が発行され、弊マイツグループの上海マイツ会計師事務所も今、まさに繁忙期の終盤に差し掛かっています。
先月号[v]にて、現地法人による不正の発見やリスク低減の一手段として内部業務監査の有効性を説明しましたが、この監査報告書を用いた確認も現地法人の管理・監督の一助となります。
従い、本稿では監査報告書の特徴やチェックポイント、留意事項等を説明します。
表1: 監査報告書の主要構成 |
■ 監査報告書(本紙):監査人の表明する意見 (・監査意見形成の基礎 ・マネジメント及びガバナンス層の財務報告書に対する責任 ・公認会計士の財務報告書の監査に対する責任) ■ 財務諸表(添付):貸借対照表、損益計算書、 ■ 財務諸表注記等 |
n 監査報告書の特徴やチェックポイント
中国の新企業会計準則に基づく監査報告書の主要構成は右表1の通りです。そして、次に主要なチェックポイントを見て行きましょう。
【監査意見の確認】
まず監査意見を確認しましょう。監査意見の種類及びその表事例は下表2の通りです。更に、これらの監査意見に対して追記情報が付記される場合もあります。一例として、コロナ禍での業績の急速な悪化に伴い、無限定適正意見が表明されていても、追記区分にゴーイングコンサーン(継続企業の前提に関する重要な疑義)が付記される状況もあり得るでしょう。
表2:監査意見の種類 |
表示例 (対応する中国語) |
評価 |
|
無限定適正意見 |
・・・適正に反映されている (公允反映了) |
〇 |
|
限定意見 |
“保留意見の形成根拠”部分の記述事項による影響を除き、…適正に反映されている (除“形成保留意见的基础”部分所述事项产生的影响外,…公允反映了…) |
△ |
|
不適正意見 |
…全ての重要事項において適正に反映されていない(未能在所有重大方面公允反映…) |
× |
|
意見差し控え |
…意見を表明できない(…而发表无法表示意见) |
- |
|
追記情報例 |
重大事項…但し、その継続経営能力には依然として重大な不確実性が存在する (强调事项…但其持续经营能力仍然存在重大不确定性…) |
||
【財務諸表の項目の確認】
監査報告書には、監査人の意見表明に続き、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書が添付されていますので、主要項目の対前年度増減の確認をすることで、主要項目における異常な金額・変動有無を確認することが出来ます。この際に、注記には冒頭の会計処理方針にかかる記載後、各項目の内容が記載され、例えば売掛金や未収金の滞留状況、収益や費用の内訳、またその他項目の内訳なども明記されており、詳細内容を確認するための契機となります。
【監査人の活用】
また、会計事務所により単に監査報告書を発行するだけでなく、監査報告会を実施する事務所もあります(上海マイツ会計師事務所では要望に応じてご本社向けにも実施する場合があります)。その際に、監査人から指摘された修正仕訳の有無を確認すると共に、財務諸表上の異常な変動や気になる事項などを積極的に質問や確認すれば、疑問点や懸念事項の解消に繋がり、また監査人レベルのチェックにも有効かと思われます。
n 留意事項:会計事務所の監査レベルにも要注意
また法定監査を実施する会計事務所の監査レベルにも留意が必要であり、特に地場の会計事務所が監査人の場合、そのレベルは千差万別です。本社の質問事項への回答内容に満足・許容できない、或いは本社の監査人からの連結インストラクションに現地法人の監査人が十分に対応できない等々、監査人の能力に疑問や不安が見られる場合には再考が必要と考えます。また、コロナ禍を理由に監査報告書の発行時期が極端に遅れるような対応があれば疑問を感じます。尚、登録会計士協会により、域内の会計事務所の評定結果等を公表する地域もあり、この場合には判断材料の一つとなり得るでしょう[vi]。
今、正に前年度の監査報告書を用いて子会社管理を行う最適なタイミングと考えます。もし従来、監査報告書を積極的に活用されていなかった場合、是非一度、試みられては如何でしょうか?
上海マイツ会計師事務所は、上海市登録会計士協会よりAランク認定を受け、更に日本人公認会計師の常駐や日本語バイリンガル中国注冊会計師も多数在籍(パートナーを含む)する、円滑な日本語対応を可能とする会計事務所です。 |
[i] 「会計法実施細則」(第11条)に“会計年度は西暦1月1日から12月31日(原文:会计年度自公历1月1日起至12月31日止)”との条項が定められている。
[ii] 「会社法」(第2条)に大会社の要件が、また同法(第327条、第328条)では大会社等の会計監査人の設置義務が明記されている。詳細は右記URLの通り。URL: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
[iii] 「金融商品取引法」(第193条)を参照のこと。詳細は下記URLの通り。
URL: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025_20210301_501AC0000000071&keyword=
[iv] 「会社法」(第164条)に“会社は毎会計年度終了時に財務会計報告書を作成し、法により会計士事務所の監査を受けなければならない(原文:公司应当在每一会计年度终了时编制财务会计报告,并依法经会计师事务所审计)”との条項が定められている。また実務的にも企業所得税の確定申告など各状況にて監査報告書が求められる為、当該監査は依然として必要と考えられる。
[v] JPマイツ通信及び過去のニュースレター(各マイツ通信ほか)は下記URLをご参照願いたい。
[vi] 上海市の場合、沪会協「2021」4号により掲載の会計士事務所336社の社名と評定結果が公開されておりいる。下記URLの通り。
URL:http://law.esnai.com/upload_files/19/202113020194438650.pdf
上記内容のお問い合わせは株式会社マイツ担当者まで
本資料の著作権は弊社に属し、その目的を問わず無断引用または複製を禁じます。