2015.07.01
営業企画部 片瀬陽平
第1回
寄附金課税 VS 移転価格課税 第1回
今後、国際税務通信の執筆を行う片瀬と申します。昨年末までメキシコに駐在してお
り、今年からマイツで活動しています。国際税務を専門とし、特にメキシコ・ASEAN
各国の国際税務に通じていますので、日本側の国際税務および現地側の国際税務
を両面から今後お伝えできればと考えています。
第一回目の今回は、日本の税務当局から近年指摘の多い「国外関連者に対する寄
附金」について確認してみましょう!
実際の調査において寄附金として課税されるケースは、主に下記の項目となります。
①子会社への技術供与に係るロイヤルティ対価を回収していない場合
②子会社への技術役務提供に係る役務提供対価を回収していない場合
③駐在員給与を日本親会社が負担している場合
寄附金は「寄附行為」の有無をその課税根拠としており、寄附行為があったと認めら
れる場合には100%損金算入は認められない旨がその規定において定められてい
ます。上記①の例では、ロイヤルティ対価を回収しておらず、寄附行為(対価性のな
い贈与)に該当してしまうものと考えられます。ただし、このロイヤルティ対価を回
収していない事実について、当社から子会社への「所得の移転」があったということ
も可能であり、税務調査を担当する調査官によって指摘内容が変わってくることもあ
り得ます。この「所得の移転」を指摘された場合には、その論点が寄附金から移転価
格に変わることとなります。
実務上は、この寄附金課税と移転価格課税の明確な線引きが曖昧なために、その判
断を国税局が出している「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」
に求めることとなります。当該事務運営指針2-19において、国外関連者に対する寄附
金の取り扱いが下記のように明記されています。
【国外関連者に対する寄附金】
2-19(前段割愛)~~~当該資産の販売等が金銭その他の資産又は経済的な利益の
贈与又は無償の供与に該当するとき。
これだけを見ると国内法の寄附金の規定と大きく違いがあるものではなく、判断に迷
うこともありますので、この事務運営指針と併せて同じく国税が出している「別冊:
移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」をご確認頂くこととなります。
下記、同事例集の国外関連者に対する寄附金の内容を記載します。
【国外関連者に対する寄附金】
<別冊> 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集より
【国外関連者に対する寄附金の損金不算入の規定の適用がある場合】
P社とS社は、P社社員が行う業務係る役務提供契約を締結したが、P社はS社を財政
的に支援する目的で対価を収受していない
【移転価格税制に基づく課税の対象としても検討を行う場合】
P社は、S社に対して役務提供を行うことは子会社に対する親会社としての責務である
として、役務提供取引に係る契約をS社と締結していない
寄附金課税と移転価格課税の線引きについては、この2つの文章を読み解き判断をし
なければなりません。つまり役務提供の対価を収受している、いないについては寄附
金に該当するかの直接的な判断とはなりません(対価を収受しているからといって、
寄附金課税の対象とならないともいえません)。ここでまず大切なのは対価の収受を
論点にすることはできないということです。
対価の有無によって有償制の判断をすることはできないために、有償制の判断につい
ては別の事象から判断をしなければなりません。そのためここで注目すべき事象は、
上記【移転価格に基づく課税の対象としても検証を行う場合】の「親会社の責務」と
いう言葉についてであり、親会社の責務として認められる場合には、上記事例におけ
る役務提供については寄附金課税の規定の適用を受けない場合もあり、その場合に
は移転価格税制に基づく課税の対象として検討することとされています。
少し長くなりましたので、今回はこのあたりにして、次回の国際税務通信ではこの
「親会社の責務」について掘り下げて考えてみることにします。寄附金課税 VS
移転価格課税の肝となる部分ですので是非お読みいただければ幸いです。それでは
次回の国際税務通信をお楽しみに!!