[2010年10月号]『従業員』と『従業員代表大会』と『工会』と。

  先月取り上げた「賃金条例」に先立ち、上海市で年内の成立がウワサされているのが「上海市従業員代表大会条例」です。外資系企業も含む全ての企業で「従業員代表大会」の設置を「義務付ける」条例です。
  先日、公表された草案によると、社内の各部門を「選挙区」として民主選挙によって「従業員代表」を選出し、「従業員代表大会」を開催することを義務付けた条例内容となっています。
  しかし、我々日本人にとっては、「従業員代表」と、「労働組合」と日本語に翻訳されている「工会」との違いが今ひとつ理解できないのではないでしょうか。
  今回は、この「従業員」と「従業員代表大会」と「工会」、そして「董事会」の関係と役割の違いについてご紹介します。
  この違いをご覧いただければ、社会主義国「中国の公司組織」と資本主義国「日本の会社組織」の[前提条件の違い]が良くお分かりいただけるのではないかと思います。
  ぜひ、ご一読ください。

  まずご理解いただきたいのが、中国における「工会」です。「工会」は、前述したように書籍などでは「労働組合」と翻訳されて紹介されていますが、正確には「工会」と「労働組合」では概念が異なります。
  資本主義の国家では、「資本家」という強者に対抗するための弱者集団として「労働組合」が位置付けられているかと思います。しかし、中国は社会主義国家です。誤解を恐れずに断言してしまえば、強者としての「資本家」は存在していないことになります。よって中国の「工会」は「弱者団体・労働者の代表」というよりも「労使双方に対する調整団体」という位置付けといった方が近しいと言えます。

  これを理解するには、「日本の会社組織」に当てはめて考えるのではなく、むしろ「国家の組織」に当てはめて考えるとわかりやすくなります。つまり、このように当てはめてみて下さい。
  ○ 従業員・・・・・・・国民
  ○ 従業員代表・・・・・議員
  ○ 従業員代表大会・・・(制限された)議会
  ○ 工会 ・・・・・・・役所・官僚
  ○ 董事会・・・・・・・内閣

  「上海市従業員代表大会条例(草案)」によると、「従業員代表大会」の開催は「半期に1度(年に2回)」とされています。「従業員代表大会」には、大きく5つの職権(1.審議事項の提案権、2.「集団契約」事項に関する承認権、3.従業員代表大会で選出された各代表に対する評議権、4.各専門委員、代表の選挙権、5.決議事項の遵守状況に関する監督権)が規定されており、これらについて半期に1度決議を行っていくとされています。
  「従業員代表大会」が半期に1度こういった決議を行うための「日常活動」を担う組織が「工会」とされています(第5条)。
  つまり、上述の「国家組織」に当てはめて「工会」考えてみると・・・
  ●  [国民(従業員)]の選挙によって選出された[議員(従業員代表)]が、
  ●   半期に1度の[議会(従業員代表大会)]開催のための
  ●   下準備活動(議案の整理、議題の決定、審議内容の調整など)を行う[官僚(工会)]
と考えると役割をイメージしやすいのではないでしょうか。

  このように、外国の法制度は「翻訳された日本語の概念」に引っ張られて正しく認識できない事例も少なくありません(「退職金」と翻訳される「経済補償金」も同様)。イメージ先行で判断してしまうのではなく、事実ベースで客観的な情報を収集することが肝要です。
  また、ここでは便宜上従業員代表大会を[議会]と位置付けましたが、立法(ルールを決める)の権限を認める内容とはなっていないことも付け加えておきます。