[2010年4月号]中国「最低賃金」の基礎知識(まとめ)

  先月のクイックマイツ通信では、江蘇省における2月1日からの最低賃金上昇に関してお伝えしましたが、他地方でも続々と新基準が発布されています。浙江省では4月1日より、広東省では5月1日より新基準が適用となります。上海市でも「4月1日より15%程度の上昇か!?」というニュースが出回っていますが、3月15日現在で正式な通知はまだ発布されていません。

さて、今回は「最低賃金(月給)」にまつわる基礎知識をおさらいしてみたいと思います。一言で「最低賃金」と言っても日本の25倍の国土面積をほこる中国ですので、当然ながら全土一律の基準とはなっていません。また、金額のみならず「最低賃金の定義」も地方によって異なっています。また、雇用形態も日本とは概念が異なっているため、日本の本社側からすると現地事情を理解することに苦心されているのではないでしょうか。
まず、前回もお話した各地により異なる「最低賃金の定義」をおさらいしてみます。
<最低賃金に含まれるもの(○)>
 
上海市
江蘇省
広東省
浙江省
最低賃金(主要都市)
※上海市のみ09年度水準
960※
2008.4~
960
2010.2~
1,030
2010.5~
1,100
2010.4~
残業(時間外労働手当)分
×

×
×
×
高温手当など特殊労働環境手当分
×
×
×
×
住宅積立金(個人負担)分
×
×
社会保険(個人負担)分
×

  特に社会保険、住宅積立金という社会保障制度の給与分を含むか含まないかが、地域によっての大きな違いとなります。つまり、各地域で発表される最低賃金の金額だけを見比べても実質的な差異は理解できません。
例えば、浙江省の2010年度最低賃金(1,100元)と上海市の2009年度最低賃金(960元)は基準が異なります。浙江省の基準(給与総額)に上海市を
合わせると、上海市(1,266元)となります。このまま上海市の最低賃金が15%アップとなれば、単純計算で約1,500元弱です。地域によって異なる「定義」には充分ご注意下さい。ちなみにこの水準を上海市10年前(2000年)の水準(約600元)と比較すると約2.5倍になっています。
細かい点となりますが「最低時給」についても取扱いにご注意いただく必要があります。例えば、先日発布された浙江省の通知では
(1)     浙江省の最低賃金(月給)「全日制従業員」 :1,100元(主要都市)
(2)     浙江省の最低賃金(時給)「非全日制従業員」: 9.0元(主要都市)
となっています。「月給1,100元」の従業員の時給計算式は、『1,100÷21.75日÷8 時間=6.32元』となり、(2)の数値と矛盾しているように見えます。
この原因は「非全日制従業員」であるためです。「非全日制従業員」とは、1日4時間以内、週24時間以内の労働時間で就労するパートのような雇用形態にある従業員を指し「全日制(1日8時間、週40時間)従業員」とは全く別概念の従業員であるとご理解下さい。原則として「4時間以上の勤務は認められない」ので残業はできません。そのため、(1)と(2)の最低賃金に関連性はなく、「全く別の基準」とご理解下さい。
今後、人件費の高騰が予想される中国労働市場での賃金動向は、金額だけでなく背景となっているこれらの「前提条件」もぜひご確認下さい。