[2008年12月号]「有給弁法」が恐い理由とその対策方法

 

前回は、「企業従業員年次有給休暇実施弁法(以下「有給弁法」と略称)」の概要についてお話しました。今回は、「なぜ、恐いのか?」また「どういう順番で何をすれば良いのか?」についてお話します。
上海でもやっとこの法律の[重要性]が認知され、「労働局にクレームが殺到している」という実しやかなウワサも聞こえてきています。しかし、他方ではこの法律の存在自体まだ「知らない」という方も少なくありません。もし、以下に現地法人が以下に該当するような場合は、ぜひ早急に対応策を検討していただくことをお勧めします。
【有給対策[簡易]チェックポイント】
     現地法人の就業規則は、日本本社の就業規則をベースにしている。
     自社の有給休暇付与日数は、法定よりも多いので安心している。
     いざとなったら、弁護士と顧問契約を結んでいるので何もしなくても大丈夫だと思っている。
 いかがだったでしょうか?
 もし、1つでも該当するような場合は要注意です。最悪の場合、数万元・数十万元ものコスト負担を強いられるほどの大きなリスクを負うことになります。充分ご注意下さい。
なぜなら、法定以上の有給休暇を付与している場合、何の対策も講じなければ「付与している有給休暇の全てが買取りの対象となってしまう」可能性がある(有給弁法:第13条)からです。「買取り」時の計算式も有給弁法に細かく規定されています。例えば、法に定められた本人の月額賃金(賞与も含めた直前12ヶ月の合算給与から時間外手当分だけを除いて割出す平均給与)が5,000元だとします。これを法に定められた範囲で最小限の買取り計算式を用いても、未消化有給休暇1日当たり、約460元の買取り価格となります。もし、未消化日数が1人につき、10日あれば、4,600元/人。同様の従業員が10人いるだけで、46,000元もの買取り金額になってしまいます。わずか10人でこの金額です。影響の大きさがお分かりいただけたでしょうか。
 
 この「法定買取り対象」となる日数を合法的に、順番に、削減していくのが「対策」です。
対策方法として行き着くところは、「就業規則の改正」です。しかし、2008年の今年から、労働契約法が施行されています。つまり、「就業規則の改正」には「従業員への承認のプロセス」を経なければ「合法的な改正」とはなりません。仮に「承認のプロセス」を経ず、強引に「改正」したとしても「労働仲裁法」によって従業員は無料で「労働仲裁」に「私の有給休暇を法に基づいて買取れ!」と訴え出ることができます。仮に会社側として「無策」であった場合、仲裁の場で、「有給弁法:第13条」を根拠として「法定以上に付与している有給休暇」も買取りの対象とされてしまう可能性は充分あり得ます。また、個人の休暇に関する訴えだけであった場合、「労働仲裁の1審だけで結審」してしまう可能性もある(労働仲裁法:第47条)のです。「無策」であることの恐さは、こんなところにもあります。
 対策案を考えるには「承認のプロセス」つまり、「従業員の納得」をいかにして得るのか?も同時に考えなければ、今後の「労働紛争の火種」になりかねません。
 
 「どうすれば良いのか?」その「対策案」構築ステップは、まず①「正確に法律の内容を知る」が重要です。そして、②「現状の把握」です。現状の社内規定では、従業員に対して「有給休暇」を何日付与しているのか?また、2008年1月1日以降現在までに何日消化しているか?これを正確に把握して下さい。その後、③「法に定められた計算で、法定有給休暇が何日になるのか?」を算出します。②と③を同時に行うと混乱します。②と③は別々で算出するようにして下さい。そして、④「②の状態を③にするには、どのような対策が必要か?」を考えます。これが、改正就業規則案の[方針]になります。労使双方にとって、「Win-Win」となるにはどのような方針が適しているか?と考えてみて下さい。ここが決まれば、改正就業規則は文章にするだけです。その上で⑤「法定有給の残存日数の処理方法」です。方法は3つしかありません。消化か、買取りか、繰り越しか、です。そして⑥「従業員への説明」です。⑤の処理を従業員に発表する場で、④の方針も説明して内諾を得ておく。就業規則の改正が間に合わなくても、せめて年内に⑥までのステップは対策として欲しいところです。