【2023年4月】会社法(二稿草案):出資者責任や董事・高級管理職等の賠償責任に関する追加条項を始めとした、各種重要項目の解説

 

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先日、閉幕した全国人民代表大会(以下“全人代”と表記)では、国務院の機構改革ほか重要事項が決定されましたが、現在、審議過程の重要草案の筆頭に、会社法の改正が挙げられます[i]。中国の立法法[ii]により法律の制定には原則、3回(以上)の草案審議が求められる中、会社法(草案)は既に2回審議済であり、また現行会社法[iii]に対する改正は2023年の立法計画にも挙げられており、次回(本年4月)開催の全国人民代表大会常務委員会での制定も、現行の枠組上では可能です。
一方、2023年1月28日まで意見聴取されていた二稿草案[iv]では、出資者責任や董事・高級管理職等の賠償責任を始め、各種の重要事項に更なる調整が見受けられています。この為、本稿では二稿草案のうち、日本本社において現地法人の運営管理に影響を及ぼし得る重要事項を主体に解説します。

  1. 会社法(二稿草案)

二稿草案のうち、日本本社に重大な影響を及ぼし得る重要事項について、初稿草案からの変更点に重点を置き、また必要に応じて現行法と比較しつつ、解説します[v]

  • (1)出資者責任の厳格化
    まず、株主(以下“出資者”と表記)の出資義務ですが、もし期限に資本金を払込まなければ、会社(以下、現地法人と表記)の持分権喪失通知により、出資者が持分権を喪失する等は初稿草案と同様ですが、更に持分権を喪失した6か月以内に、当該持分権の譲渡、減資をしない場合、他の出資者が出資比率に応じ出資金額を支払う等が二稿草案にて追加されています。従い、もし二稿草案が踏襲され、払込み未済の合弁パートナ―が存在する場合、もし日本側が出資金を全額払込み済であったとしても、合弁パートナーが期限通りに払込まず、当該喪失持分権を放置した場合、日本側に払込み等の責任が生じる形となります。(以上、第51条)
    また期限通りに出資しない場合の個人の責任についても、下記(2)の通り、改定が加えられています。
  • (2)董事と高級管理職の責任の強化
    現行法では、董事、監事、高級管理人員が職務遂行において現地法人に損害を与えた場合、現地法人に対する損害賠償責任を定めています[vi]。初稿草案では、董事や高級管理職が職務執行に際し、故意又は重大過失により第三者に損害を与えた場合に、現地法人と共に連帯責任を負うと明記されるなど、賠償範囲の拡大が注目を集めました。二稿草案では当該関連条項は下表等に変更され、第三者への損害賠償は、故意や重大過失により賠償責任を負うと同条項からは“連帯”が削除されると共に、董事の為に賠償責任保険の付保を認めるなど、個人の責任について一定の配慮が加えられました。
    一方、出資時の個人の賠償責任は、現物出資の実際の価額が出資引受額よりも著しく低く、現地法人に損害を与えた場合、“責任を有する”董事、監事、高級管理職が連帯責任を負う形に厳罰化されました。

【表:二稿草案における、董事、高級管理職等が負うべき責任範囲にかかる条項から抜粋】
(初稿草案から二稿草案に掛けて、緑字が追記事項、赤字・取消線が削除箇所。)

➤  董事、高級管理職が業務を遂行し、第三者に損害を与えた場合、現地法人が賠償責任を負う。もし董事、高級管理職に故意または重大な過失が存在する場合、賠償連帯責任を負う。(第190条)

➤  現地法人の出資者、実質的支配者が董事、高級管理職に指示し、現地法人又は出資者の利益に損害を与えた場合、これらの董事、高級管理職も連帯責任を負う。(第191条→文脈的には、ほぼ同義)

➤  現地法人は董事の任期中、現地法人の職務遂行による董事の賠償責任について賠償責任保険を付保できる
(後略。第192条)

➤  出資者に前項(出資した現物財産の実際の価額が出資引受け額よりも著しく低い等)の行為があり、現地法人に損害を与えた場合、出資者が賠償責任を負い、知っていた或いは知り得べき責任を有する董事、監事、高級管理職が必要な措置を講じ無かった場合、当該出資者と賠償連帯責任を負う。(第52条)
  • (3)機関設計に対する一層の整備、強化
    次に、機関設計において、役割の明確化やガバナンスに柔軟性を持たせる形に変更されています。
    まず、初稿草案では現行の会社法に定められている董事の具体的な職権を削除していましたが、再度、董事の職責を具体的に列挙する形式に変更しています。(第67条)
    また、前出の出資金払込み状況の確認は、董事会が行うべき形に変更されています(第51条)。
    更に比較的小規模の有限責任会社では、現行や初稿草案と同様に二稿草案でも監事会に代替して1名か2名の監事の設置を容認しています[vii]が、更に全出資者が一致して同意すれば、監事の設置を不要にできるとの条項も追加されています。(第83条)
    一方で、現行法においても監事会では従業員代表を含める必要があります[viii]が、二稿草案では“(従業員代表を有する)監事会を設置した場合を除き”と初稿草案から適用除外条件が付記されたものの、依然、従業員が 300 人以上の有限責任会社では董事会に従業員代表を含めなければならない(且つ、より小規模の現地法人においても董事会の構成員に従業員代表を含めることができる、第68条)等、現行の機関設計から変更が加えられています[ix]

 

  1. 留意事項:本社における現地法人管理に対する影響

二稿草案では、董事や高級管理職の業務遂行に対する賠償責任の範囲が調整され、更に董事に対して損害賠償責任保険の付保を容認する等、個人に対する賠償責任に一定の配慮が見受けられるものの、現行法と比較すれば、依然、第三者に対する賠償責任条項が追加・維持されている点には変わりなく、董事や高級管理職の忠実義務、勤勉義務がより重く課せられており、注意が必要です。

更に、二稿草案では出資者の出資義務がより厳格化され、払込み未済の合弁パートナーを有するケースにて、もし二稿草案が踏襲されれば、合弁パートナーの出資義務の履行に注意を払う必要が生じます。この為、今後、従来以上に合弁パートナーとの円滑な意思疎通や協働が求められると考えられます。

また、独資企業などの実情に合わせて、出資者の同意の下、監事の任命を不要とするなど、より柔軟な機関設計を容認した一方で、一定規模以上の現地法人では、監事会に加えて董事会の構成員にも従業員代表を含める必要が生じ得るなど、留意が必要です。

このように、現地法人の運営・管理に重大な変更や影響を及ぼし得る二稿草案は、その他、上場会社に対するガバナンス強化に関する条項等々、多岐に亘り改定されています。更に、二稿草案に対しても多くの意見が寄せられた状況です[x]。この為、改正公布までに時間を要する可能性が十分にある一方で、既に二審を経ており、今後、比較的短期間での公布の可能性も踏まえつつ、改正条項の審議動向に注視が必要です。

 

[i] 2022年12月には増値税法の下記URLの初回草案が審議されており、今後、同法の審議動向も注視されたい。

URL: 增值税法草案首次提请审议保持现行税制框架和税负水平基本不变_中国人大网 (npc.gov.cn)

[ii] 立法法(2023年改正)の原文は右記URLの通り。URL:中华人民共和国立法法_中国人大网 (npc.gov.cn)

[iii] 現行の会社法の原文は、右記URLの通り。URL:中华人民共和国公司法_中国人大网 (npc.gov.cn)

[iv] 会社法(二稿草案)の原文は右記URLの通り。URL:《公司法》修订草案二审稿公开征求意见 (qq.com)

[v] 初稿草案の重要ポイントは、下記URLに含まれるJPマイツ通信2022年2月号を参照のこと。
URL:ニューズレター アーカイブ| 株式会社マイツ (myts.co.jp)

[vi] 現行会社法第149条を参照のこと。

[vii] 現行会社法第51条を参照のこと。

[viii] 現行会社法第51条を参照のこと。

[ix] 更に、初稿草案に引続き、董事会内に監査委員会を設置できる(第69条)旨も定められている。

[x] 同草案には25,365件(Ex.増値税法草案430件)と多数の意見が寄せられた。URL:http://www.npc.gov.cn/flcaw/

 

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