【2023年3月】中国出張者の個人所得税、滞在日数183日超の対応に要注意

 

PDF版はこちら → China Info JPマイツ通信 2023年3月号

 

2023年に入り、中国への入国時における隔離措置の撤廃(一時的に日本国籍者へのビザ発給の暫定停止があったものの既に解除)され、弊社にもMビザ取得にかかる照会や依頼が多数、寄せられています。また既に、成田、羽田の発着便の日中間のフライトも増便されつつあるなど、今後、更に日中間の渡航が容易になると予想される状況です。この為、今後、日本本社から中国への出張者が増加すると見込まれる為、本稿では出張者にかかる個人所得税について説明します。

 

  1. 中国出張者にかかる個人所得税の概要:短期滞在者免税措置により中国での納税は発生しないケース

日本本社に勤務する日本国籍等の出張者(以下“中国出張者”と表記)は、原則、日本の居住者/中国の非居住者に該当します[i]
まず日本の所得税ですが、居住者として、原則、全世界所得に対して、日本で課税されます[ii]。一方、中国の個人所得税については、日中間では日中租税協定[iii]が締結されている為、同第15条第2項で規定される、以下の短期滞在者免税措置の3要件の全てに該当するか否かで納税義務の有無を判断します。

【短期滞在者免税措置が享受可能な3要件:日中租税協定第15条第2項】

報酬の受領者が当該年を通じて合計183日を超過しない期間、当該他方の締約国内に滞在すること

報酬が当該他方の締約国内の居住者でない雇用者またはこれに代わる者から支われるものであること

報酬が雇用者の当該他方の締約国内に有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものでないこと

すなわち、中国出張者が暦年(2023年1月1日~12月31日)183日を超過して中国に滞在せず、中国出張中の給与等も含めて日本本社により報酬が支払われ更に、中国国内に本社の恒久的施設(Permanent Establishment、所謂“PE”)が無いような、日中租税協定の短期滞在者免税措置の3要件の全てを充足する場合には、原則、日本本社の中国出張者に対して、中国の個人所得税に対する課税義務が生じません(PEについては、下述“2”を参照のこと)。

 

  1. 183日を超過した等、中国での納税義務が発生するケースの対応

もし上記の3要件をいずれかを満たさない、例えば、歴年で中国滞在日数が183日を超過した場合、どの様に対応すべきでしょうか?

もし滞在日数が183日を超過した場合、以下の財政部・税務総局公告2019年第35号[iv]に則り183日に達した月次の終了後15日以内に税務機関に過去月次の給与・賃金所得の納付税額を納付する旨が定められています。

【財政部税務総局公告2019年第35号】

五-(一) 住所の無い個人の見込み国内居住期間に関する規定

3.      住所の無い個人が一納税年度内において国内居住日数が累計90日を超過しないと見込んだが、実際の累計居住日数が90日を超過した、或いは他方の居住者個人が租税協定に規定する期間内において国内滞在日数が183日を超過しないと見込んだが、実際の滞在日数が183日を超過した場合、90日或いは183日に達した月次終了後15日以内に、主管税務機関に報告して過去の月次賃金給与所得の納付税額を改めて計算して税額を納付しなければならず、追納するが、この場合、滞納金は徴収されない。

一方、実務的には、改正個人所得税法等の施行後、税務当局は出張先の中国企業(すなわち、プロジェクトの実施先、或いは報酬の支払元)を通じた納税申告を要求することが一般的であり、日本本社のコンプライアンスに則り、中国出張者が適時に納税しようとしても、取引先の中国現地企業を通じた納税を求められた場合、そのハードルが高く、対応に苦慮されるケースが見受けられます。

(地域や個別の具体的な状況により、中国マイツグループにて納税代行が可能なケースもありますが、当該現地企業での税務システム操作、納税操作等が基本的に必要となり、当該現地企業の協力が前提となります。)

また、日中租税協定と中国国内法では機構・拠点の定義に差異が生じており、中国出張者の提供したサービス費用に関してPEではないと中国税務当局には認定されずにサービス費用の支払時に企業所得税の源泉徴収を行う場合、個人所得税の課税リスクが生じる可能性もあります[v]

 

  1. 留意事項

まず、上述の繰り返しになりますが、中国当局の現状における見解、すなわち“中国出張者の納税対応は、原則、プロジェクトの実施先(或いは、報酬の支払元)を通して行うことが基本”の下では、出張先が現地法人子会社であれば対応可能と思われるものの、出張先が中国企業などの取引先であれば、同企業の協力を得ることが前提となる為、適切に納税を行うことは、中々容易ではないと考えます。
また、本稿は中国の個人所得税に限定しており割愛しますが、上述したPE課税の論点の通り、中国出張者にかかる税務は個人所得税のみならず、日本本社の企業所得税(PE課税)や法人税(中国現地法人からの適切な対価の回収:国外関連者に対する寄附金)など、日本本社にも密接に関わる論点と言えます。

従い、中国出張者にかかる個人所得税の課税リスクを低減させる最善策は、歴年の滞在日数を183日以内として日中租税協定の短期滞在者免税措置を享受すべく、出張日数をコントロールすることに尽きると考えます。但し上述の通り、出張者の提供したサービス費用の回収時に、PE課税による企業所得税の源泉徴収が必要となった場合には個人所得税の課税リスクの生じる可能性もあり、留意すべきと思われます。

この為、2023年の早い段階において、中国出張者の訪中滞在日数を計画し、適切に管理することがまず肝要です。更に本社として中国出張者が現地にて果たす役割・役務の妥当性やリスク、対価の有償性等においても、計画の段階から確認、検証することがより望ましいものと思われます。

 

 

[i] 中国籍の場合、中国税法上、中国国内の滞在日数にかかわらず、習慣的居住性を有し“住所を有する”中国の居住者と判定され、日中の“双方居住者”として、日本と中国の両国で課税される可能性に留意が必要。
個人所得税法(第1条)、個人所得税法実施条例(第2条)、日中租税協定(第4条)等を参照のこと。

[ii] 詳細は、右記URLの通り。URL:No.2010 納税義務者となる個人|国税庁 (nta.go.jp)
但し、日本の役員報酬や中国の董事報酬に関しては、下記の日中租税条約(第16条)等に基づく納税義務が生じる点に留意が必要。

第16条:一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。

[iii] 同協定の原文は右記URLの通り。URL:China1983_jp_en.pdf (mof.go.jp)

[iv] 財政部・税務総局公告2019年第35号の原文は下記URLの通り。
URL:财政部 税务总局关于非居民个人和无住所居民个人有关个人所得税政策的公告 (chinatax.gov.cn)

[v] 日中租税協定ではPEの構成要件に“12か月の間に6か月超”等、一定期間の“工事(Project)”の存在を含むが、「企業所得税実施条例」(第5条)では“中国国内の生産経営活動に従事する機構・拠点”の定義として“役務の提供場所”などを挙げており、機構・拠点の存在する期間をその構成要素に含んでいない等、日中租税協定と中国国内法では機構・拠点の定義に差異が生じている。

尚、PE課税の詳細は、既往JPマイツ通信2021年7月「Withコロナ SV役務(Supervising Service)時の技術者派遣にかかるPE課税」を参照のこと。 尚、JPマイツ通信を始めとする各種ニューズレターは下記URLを参照されたい。
URL:ニューズレター アーカイブ| 株式会社マイツ (myts.co.jp)

 

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