PDF版はこちら → 上海通信 2022年7月号
新型コロナウィルス(COVID-19)の出現は企業管理において多くの変化をもたらしました。
グローバル企業に占める中国現地法人の重要性が高まる一方で、日本から渡航して内部監査を履行する事が困難になるなど、日本親会社から見て、中国現地法人の管理状況は十分か?現地で意図せず不正が起きていないか?といった相談も増加しています。
本号では、特に相談の多い「現地法人で不正が起きないようにするには?」の1つの解をご紹介します。
「不正が起きない組織とは」~不正のトライアングル※の3つの視点~
不正が起きない組織(企業)を考える際のポイントは、不正のトライアングルの3つの視点に着目し、それぞれで問題が発生しないようにする事です。しかしながら、「機会」に相当する企業管理、いわゆる内部統制には限界(経営者の内部統制無視、共謀、費用対効果、等)があり、完璧な管理体制を構築する事は不可能とされます。
そこで、不正を考える視点として、「動機」や「正当化・倫理観」にも着目する事が重要となります。
不正の |
3つの視点 | 不正リスク要因の内容 |
機会 |
業務プロセス |
不正行為を行う事が可能な環境が存在する 【例】コンプライアンス・法規制対応機能の脆弱性、牽制・チェック機能不全 |
動機 |
企業風土・ |
不正行為を実際に行う際のきっかけがある
【例】処遇への不満、外部からの利益供与、生産性・コスト等の過重ノルマ |
正当化・ |
行動特性 |
不正行為を思い止まらせるような倫理観等が欠如している (不正可能な環境下で不正をしないとの堅い意思が持てない状態)【例】個人の倫理観欠如により不正へのブレーキが効かない、過去に問題は起きていないという慢心、コンプライアンス軽視 |
※不正のトライアングル:インディアナ大学出身の犯罪学者ドナルド・R・クレッシーの研究による。
「不正行為を思い止まる倫理観の醸成」~個人行動や心理的側面への働きかけ~
不正予防で大事な事は、『「機会」に繋がる内部統制には限界があるから管理体制は適度で良い』という事ではなく、可能な限り管理レベルは高めるが、「動機、正当化・倫理観」にも焦点を当て、「不正行為を思い止まる倫理観を醸成」する事にあります。しかし、「動機、正当化・倫理観」は、人の心の問題に拠るため視覚化しにくい点で企業管理上の難しさがあります。現地法人内部監査の御支援でも、内部統制の把握・評価には注力するが、「動機、正当化・倫理観」への着目は極めて少ない傾向です。
「現地法人で不正が起きないようにするには?」という問いに対し、完璧な管理体制の構築が不可能である以上、個人の倫理観は不正予防の必須条件となりますので、「動機、正当化・倫理観」の視点からも現地法人の企業管理やモニタリングを考える事が非常に重要であると考えます。
個人行動や心理的側面への働きかけとして、例えば、①コンプライアンス教育の継続的実施、②過度なノルマの排除・賞罰規程の見直し、③ワークショップ型研修等による組織風土改革、④内部通報制度の再構築、⑤経営層・従業員へのアンケート調査、等も有益ですので是非検討してみてください。
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