2020年8月号等のJPマイツ通信[i]にて、一時帰国が長期化している駐在員の個人所得税を説明しました。現在、中国2020年の納税年度が終了したばかりでもあり、中国の居住者・非居住者(中国へ再入国済、一時帰国の長期化中、本帰国した駐在員)の別など状況ごとに、改めて、日中における課税関係を整理、説明します。
1. 現行(中国再入国済・一時帰国中で日本滞在)駐在員の課税関係<中国の居住者・非居住者の両方があり得る>
日本「所得税法」と中国「個人所得税法(2018改正)」では、居住者・非居住者の判定基準、並びに課税対象となる源泉所得の範囲はそれぞれ異なります。下記に詳述しますが、例えば原則、日本側では非居住者となり、一方、中国側では中国国内の累計居住日数が183日以上か未満かにより、居住者・非居住者の別を判定します[ii]。
まず日本「所得税法」では居住者とは“日本国内に「住所」があるか又は現在まで引き続いて1年以上「居所」がある個人”である為、中国への再入国を前提とする駐在員は原則、非居住者と考えられます。更に、「所得税法」では原則、役務地主義を採用している為、中国国内源泉所得か否かを問わず、日本国内において行う勤務による日本払い給与に非居住者として税率20.42%の個人所得税が課税[iii]されます。
一方、中国「個人所得税法(2018改正)」等による非居住者の課税関係は、海外での兼職や役職(高級管理職)の有無、誰が給与の支払い・負担をするのか等が重要なポイントとなります。
(1) 2020年の中国国内の累計居住日数が183日未満
中国側の課税は、上述の通り、2020年の中国国内の累計居住日数が183日未満となった場合、中国でも非居住者となる為、原則、日中双方で非居住者となります。更に以下の通り、海外での兼職や役職(高級管理職)の有無、給与の支払い・負担者により、課税関係は異なります。
① 中国現地法人の業務に専念している場合:
現地法人の業務に専念している駐在員の場合、海外(中国国外)に滞在しているか否かに関わらず、(中国の)国外勤務日数としては計算されず、原則、海外滞在期間も中国国内勤務日数としてカウントされ、中国国内源泉所得に対して課税されます[iv]。結果として日中双方で2重課税されますが、日中共に非居住者ですので、いずれの国でも外国税額控除の対象とはなりません。
② 海外(日本)の業務を兼務している場合:
駐在員など“住所の無い”非居住者に対しては、財政部、税務総局公告2019年第35号[v](以下「35号通知」と表記)が前提となり、以下に大別されます。
すなわち、中国業務に専念している駐在員とは対照的に、海外(例えば日本本社)業務を兼務している場合、35号通知に基づき、原則、非高級管理職であれば中国国内勤務日数がゼロ日となる為、実質的に課税所得が生じず、また高級管理職であれば中国国内払い又は負担分を課税対象と考えます[vi]。従って、下表2の通り、2重課税を回避する形となります。但し、あくまでも兼職の有無や給与支払い・負担は実態に即すべきであり、日中双方の税務リスクに注意が必要です。原則的な課税関係は以下の通りです。
2. 本帰国した駐在員<日本の居住者へ>
日本「所得税法」に基づく日本の居住者に変更後は、全世界所得に対し課税されます[viii]。一方、一時帰国中(本帰国前)に非居住者として税率20.42%にて課税された個人所得税額の取扱いですが、年末調整の対象期間はあくまでも日本の居住者への変更後以降であり、非居住者期間中の納付税額は確定申告の還付対象とはなりませんので、注意が必要です。原則的な課税関係は以下の通りです。
3. まとめ・留意点
まず、上記はあくまでも規定に則った原則的な取り扱いであり、中国での外国税額控除の適用可否を始め、地域・規定解釈により、差異の生じる可能性に留意が必要です。また繰り返しになりますが、兼務の有無を始め、あくまでも業務の実態に即した納税をすべきであり、実態を反映しない場合には日中双方で税務リスクが生じるなど、注意が必要です。
尚、日中間でのビジネス・トラックやレジデンス・トラックは運用が開始されました[ix]が、中国の省級部門により発給される招聘状(所謂“特別招聘状”)の発給が極めて厳しい状況にあるなど、一部の駐在員は一時帰国期間が更に長引く可能性もあり得ます。この為、2020年のみならず2021年も含めた適切なタックスプランニング及び納税対応が求められています。
[i] JPマイツ通信及び過去のニュースレター(各マイツ通信ほか)は下記URLの通り。
URL:https://myts.co.jpcategory/newsletter/
[ii] 居住者・非居住者の判定基準の判定基準や課税対象となる源泉所得の範囲の詳細は、2020年8月号JPマイツ通信を参照のこと。
[iii] 国税庁タックスアンサー「No.2878 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)」等を参照のこと。原文URLは下記の通り。また詳細説明はJPマイツ通信8月号を参照のこと。URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2878.htm</spa n>
[iv] 中国国内源泉所得となる根拠は、詳細説明はJPマイツ通信8月号を参照のこと。
[v] 原文は右記URLの通り。URL:http://www.chinatax.gov.cn/chinatax/n363/c23755975/content.html
[vi] 但し、日本の役員報酬や中国の董事報酬に関しては、下記の日中租税条約(第16条)等に基づく納税義務が生じる点に留意が必要。
第16条:一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
[vii] 居住者の(給与など)総合所得の納税額に過不足ある場合に実施。詳細は下記URLの国家税務総局公告2018年第62号の通り。
URL: http://www.chinatax.gov.cn/n810341/n810755/c3962204/content.html
[viii] 居住者の課税範囲は、下記URLの国税庁タックスアンサー「No.2010 納税義務者となる個人」等を参照のこと。
URL: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2010.htm
[ix] 日中間でのビジネス・トラックやレジデンス・トラックの詳細は、外務省HPの下記URLを参照のこと。
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/page24_001212.html
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