【2016年6月】行為計算の否認規程

2016.06.01

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営業企画部 片瀬陽平

 さて、今回の国際税務通信では行為計算の否認というものを確認してみましょう。
この行為計算の否認規程は皆様にはあまり聞き覚えがないものかと思いますので、第4回に記載した米アップル社の「ダブルアイリッシュ&ダッチサンドイッチ」という節税スキームを思い出してみてください。この節税スキームはアメリカにて合法と解されたために、アメリカはOECDにBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)対策を求め、その結果、全世界を巻き込んでのBEPS PJが始まったのは記憶に新しいと思います。
節税スキームは、この「ダブルアイリッシュ&ダッチサンドイッチ」だけが問題となっているわけではなく、日本においてもYahooとIBMの税務訴訟があれだけ注目
を集めたこと等を鑑みると、このBEPS PJが始まるまでは日本を含めた各国ともにBEPSの問題にうまく対応できているとは言い難い状況にあったのかと思います。アメリカは、これらの節税スキームについて、違法ではないが不当と考えたためにOECDに対策を求めたのです。日本において、この「違法ではないが不当である」ものへの対策として、以前より法132条に行為計算の否認規程があります。

【法132条:同族会社の行為又は計算の否認(一部抜粋)】
税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
※132-2(組織再編に係る行為計算の否認),132-3(連結法人に係る行為計算の否認)においても基本的な考え方は同様。

 この行為計算の否認規程を簡単に言うと、「違法ではないが不当」な結果となれば税金を課すことができるというものであり、目的ではなく、結果により判断されるものであると解されています。つまり、いくら高尚な事業上の目的・理由(行為・計算までも含まれると解される)があったとしても、それだけではこの行為計算の否認規定の適用リスクを消去することできません。

 また、「不当」とは、吉国一郎編「法令用語辞典」に次の様に記載(一部抜粋)されています。

【法令用語辞典】
不当:法令で「不当」という用語が用いられている個々の場合に、何がこれに該当するかは、それぞれの場合について、その制度の目的を考え、社会通念に照らして、具体的に定されなければならない。

 つまり、「法令の規定に違反してはいないが、制度趣旨や社会通念に照らして適当ではないこと」を不当というものと考えられます。

これらを総合的に考えると、結果が制度趣旨や社会通念に照らして適当であれば、行為計算の否認規程の適用を免れることができるものと思います。日本において注目された前述のYahooの税務訴訟においても、原審及び控訴審(棄却)にて、役員の就任期間や就任目的、業務内容が欠損金引継ぎを認める法の制度趣旨(共同事業の継続)に合致しなかったために、欠損金の引継ぎが不当に税負担を減少させるとの判断になったと解されています。

 この、行為計算の否認規程の適用を免れるためには、正しい趣旨解釈及び文理解釈が必要となります。ただし、専門家であっても制度趣旨をしっかりと理解(基本的に文理解釈は得意)して税務調査等に臨んでいる方は少ないような気もしますので、特に大がかりなビジネススキームを検討する際などは、文理解釈による税務リスクの検証だけではなく、制度趣旨まで含めた総合的な検証を行ってもらえればと思っています。