2016.05.01
営業企画部 片瀬陽平
今回の国際税務通信は、親会社及び子会社の給与負担割合(較差補填金)についてお伝えします。この較差補填金についても、税務調査の際には指摘が多い項目であり、特に設立間もない企業からは、どの程度まで親会社で給与負担できるかのご確認を頂くことが多いように思います。
まずは法基通9-2-47にある「出向者に対する給与の較差補填」を確認してみましょう。
【出向者に対する給与の較差補填】
出向元の法人が出向先の法人との給与条件の較差を補てんするため出向者に対して支給した給与は、出向期間中であっても、出向者と出向元の法人との雇用契約が依然として維持されていることから、出向元の法人の損金の額に算入されま
す。また、次のような場合も、給与較差補てん金として取り扱われます。
(1)出向先の法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため、出向元の法人がその出向者に賞与を支給する場合
(2)出向先の法人が海外にあるため、出向元の法人が留守宅手当を支給する場合
※この給与較差補てん金は、出向元の法人が出向者に直接支給しても、出向先の法人を通じて支給しても同様に取り扱われます。
つまり、出向元法人において支出した出向者の給与負担については、「給与条件の較差を補填するために支出した給与」でなければ損金算入することができないとされています。これ以外の理由での負担は、基本的に損金算入することができませんので、まずは親会社が出向者給与を負担する場合には、この較差補填金の規定に則って理論構築する必要があります。
この通達の内、重要な文言は次の3つです。
①給与条件の較差を補填
②出向者に対して支給した給与
③留守宅手当
それでは①の「給与条件の較差を補填」から確認します。ここにいう給与条件の較差とは、出向元法人と出向先法人の給与条件の較差を指し、月額給与・賞与・社会保険料・フリンジベネフィット・上記(1)の賞与の額・上記(2)の留守宅手当等の給与条件の較差が対象となります。給与の較差ではなく、給与条件の較差と条件を付しているということは、経済実態の面から給与負担額を比較するのではなく、雇用条件を維持することを目的とした人事労務上の必要性があるからということができます。
そのため、この経済的負担については法基通9-4-1や9-4-2の寄附金の範囲(子会社損失等の負担)の側面からは、出向元法人(親会社)から出向先法人(子会社)に対する寄附として、寄附金課税されてもおかしくないものではあります。
ただ、この通達で言わんとしていることは上記の通り、人事労務上の必要性、言い換えれば雇用契約の遵守の必要性からなされているものであるために、損金算入することができるものと考えられます。
次に②の「出向者に対して支給した給与」とは、直接又は間接を問わずに、出向元法人が出向者に対して給与を支給したことが条件となります。つまり、出向元が負担しているが、出向者に対し給与が支払われていないものに関してはその対象とはなりません。
※ただし、雇用契約書に従って給与が支払われていない等の一定の場合には、較差補填について寄附金税制や移転価格税制が適用されることがあります。
③の留守宅手当についてですが、これは本来の意味では較差補填ではありません。日本に家族等を有する者が海外にて勤務することになったとしても、国内で勤務するのと比べて経済的な負担が重くならないように出向元法人が支給する
(国内での生活を維持するための)経済負担です。
※社会保障協定を結んでいない国に出向する場合、日本での社会保険料を留守宅手当として出向元法人の負担として残し、それ以外の金額を出向先法人で負担することが現在多く行われています。
これらの①~③をポイントとして、較差補填金については出向元法人の損金の額に算入することができます。現地給与額については、各国においてコンサル会社が日系現地子会社の平均給与の情報を出しているかと思いますのでそれをベースに考えることや会社独自の考え方をもつことなど、その対応は種々あると思いますが、雇用契約や駐在員規程の整備などが重要となりますので、会社の考え方をしっかりと持ち対応してもらえればと思います。
最後に、クライアントから多く質問のある「親会社は一般的に何割まで給与負担できるのか?」にも簡単に触れておきます。出向者は基本的に出向先法人に勤務しておりますので、できるだけ出向先で負担することが筋だと思います。負担割合が高い法人は特にご注意ください。