業務時間外にSNSで顧客の質問に答えるのは
残業にあたるのか?
PDF版はこちら →人事労務通信 2025年1月号
1 業務時間外にSNSで顧客の質問に答えるのは残業にあたるのか?
業務時間外にWeChatなどのSNSで顧客から質問を受けることがあります。なかなか顧客の質問を放置することもできず時間外や休日でも対応をしなければならない場合があります。
このような対応が残業に当たるのか、残業代をどのくらい支払う必要があるのかは悩ましい問題なのですが、この点を判断した判決が出ましたので、ご紹介致します。
2 事例
李は2019年4月1日に北京のテクノロジー企業(以下、「会社」と言う)に製品オペレーターとして入社しました。会社と李は、2022年3月31日までの期間の雇用契約を締結し、その中で会社と李は不定時労働時間制を実施することで合意しました。
その後、当事者間で残業代に関する紛争が発生しました。李は、500時間以上の残業があったのに、会社は残業代を支払っていないと主張しました。 李は、残業はWeChatやDingDingなどのソーシャルメディアを使って顧客や従業員とコミュニケーションを取るためだったと主張しました。
李はチャット記録、シフト表、DingDing打刻記録などを提出し、残業があったと主張しましたが、会社側は、提出された内容は休日に顧客グループの顧客から時折寄せられる質問に対応するためのものであり、残業ではないと主張しました。
李は労働仲裁を申請し、会社に対して203206.9元の残業代を支払うよう要求しましたが、労働仲裁委員会は支持しませんでした。李は、この裁定を不服として裁判所に訴えました。
3 判決
(1)第一審判決(残業代請求を認めなかった)
李と会社は雇用契約上、不定時労働時間制度を実施することに同意したため、李が会社に対して休日や終業時刻後の残業代を支払う義務はないと判断しました。
加えて、法定休日の残業については、李が主張する日のほとんどが法定休日であることを証明するために勤務表を提出しただけで、具体的な業務内容や労働時間を証明することができなかったため、裁判所は李の法定休日の残業代請求を支持しませんでした。
李は、この決定を不服として控訴しました。
(2)第二審判決(一部残業代請求を認めた)
第二審判決は以下の通り判断しました。
・WeChatなどのソーシャルメディアの利用が周期的かつ固定的なものであり、労働者の休息時間を明らかに奪っている場合、時間外労働とみなすべきである。
・中華人民共和国労働法第39条は “企業が生産の特性により本法第36条および第38条の規定を実施できない場合、労働行政部門の承認を得て、他の労働・休息方法を実施できる “と規定している。労働部の「企業による非正規労働制の実施及び労働時間の総合計算の認可に関する弁法」(労働部第503号[1994])によれば、企業による非正規労働制の実施及び労働時間の総合計算は、労働保障部門の認可を受けなければならない。本件では、契約上、双方が不定時労働時間制を実施することに合意したにもかかわらず、企業は不定時労働時間制の認可を得ていない。
・李の職種は「製品操作」であり、李が主張した時間外労働は、WeChatやDingDingなどのソーシャルメディアを使って顧客や従業員とコミュニケーションを取ったことであった。李が提出したWeChatの記録やその他の証拠、特に李が提出した証拠から、会社は李に勤務日の一部と休日に働くよう手配していたことがわかる。
・当裁判所は、経済の発展とインターネット技術の進歩に伴い、労働者の労働形態はますます柔軟になり、いつでもどこでもパソコンや携帯電話を通じて労働を提供できるようになり、もはや使用者が提供する職場やオフィスワークステーションに拘束されないと考える。 使用者の職場で働いていないという理由だけで職場という概念を否定するのではなく、職場という概念を再構成し、労働者が実質的な労働内容を提供しているかどうかを考慮して時間外労働を判断すべきである。
・労働者が就業時間外にソーシャルメディアを利用して一般的な単純なコミュニケーションの範囲を超える業務を遂行する場合、ソーシャルメディアの業務利用が周期的かつ固定的な特徴を持ち、明らかに労働者の休憩時間を奪っている場合は、残業とみなされるべきである
・会社が支払うべき残業代の金額については、李の残業時間の頻度、長さ、内容、給与水準などを考慮し、提出された証拠に従って、裁判所が裁量で決定する。
以上のことから、二審は、会社に対し、2020年1月21日から2020年12月11日までの期間の残業代として、李に3万元を支払うよう判決を出しました。
4 実務上の留意点
二審の判断は常識的なもので、今後も同様の判決が出る可能性があります。この種の紛争を予防するためには、対応した時間について記録をつけてもらうか、件数×時間で便宜的にみなしで労働時間を計算するなどして、ある程度は残業代を払う必要があると思われます。
時間数・金額についてですが、SNSのやりとりといえども、その間ずっと拘束されているわけではないので、裁判所も、今回のように3万元などと比較的抑えめの金額を算出すると思われます。
何も対策を取らないと退職時にトラブルに発展する可能性がありますので注意が必要です。
事件番号:(2022)京03民終9602号(当事者仮名)