【2024年4月】年末賞与に関する賞与在籍支給日要件は有効か?中国最高裁の見解は?

 

 

 

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1 中国における賞与在籍支給日要件

日本では賞与支給日に在籍していない従業員には賞与を支給しないという賞与在籍支給日要件は法的には有効とされています。中国においても、就業規則で賞与在籍支給日要件が設けられていることが多く、それでも賞与支給日以前に退職した従業員が「賞与をもらえないのはおかしい」と主張することがあります。

これまで中国では最高裁の見解が明確ではありませんでした。この度、中国最高裁が見解を示しましたのでご紹介したいと思います。

2 きっかけとなった事件

(1)事例

XはY社と雇用契約を結び、戦略部シニアマネージャーの役職に就きました。2017年10月、Y社は組織を再編し、戦略部の廃止を決定したため、Xの役職は廃止となりました。 XとY社は雇用契約内容の変更などをめぐって2ヶ月近く交渉しましたが、12月29日、客観的状況に大きな変化があったこと、雇用契約の変更について合意に至らなかったことを理由に、Y社はXに対し雇用契約終了の通知を出しました。

Y社の年末賞与は翌年の3月に支給される規定があり、Xは年末に雇用契約が終了したため年末賞与を受給することができませんでした。これを不服としてXは労働仲裁・訴訟を起こしました。

(2)判断

審理の結果、裁判所(上海第二中級人民法院)は、現行法令では年末賞与の支給方法を義務付けておらず、使用者は、使用者の経営状況や従業員の業績に応じて、賞与を支給すべきか否か、支給の条件・基準を決定する権利を有するが、一方で、規則があったとしても、退職の理由、時期、業績、組織への貢献の度合いに照らして検討されるべきあるとも判断しました。

本事例では、Y社が組織構造を調整し、雇用契約の変更について当事者間で合意が得られなかったため、雇用契約が終了したのであり、自発的な退職では無く、かつXはY社に相応の貢献をしているため、Xの2017年分の年末賞与の支払い請求は支持されるべきであると判断しました。

3 最高裁の見解

最高裁判所裁定委員会は、年末賞与の支給に関する規則を再整理した指導事例第183号を審議し、以下の通り、採択しました。

分かりづらい内容なのですが、

・通常の自発的な退職の場合は、在籍支給日要件は有効で賞与支給日以前に退職した場合は賞与を支払う必要は無い。

・リストラ等のいわゆる会社都合退職の場合は、使用者が、労働者が年間の予定業務を遂行していない・賞与を受給できるほどの実績等がないことを証明しない限り、賞与支給日以前に退職したとしても賞与を支払わなければならない。

という内容となっております。

「年末賞与の支給前に離職した労働者が使用者に年末賞与の支給を請求する場合、人民法院は労働者の離職理由、離職時期、職務遂行状況、使用者への貢献度を考慮しなければならない。

使用者の規則制度では、年末賞与の支給前に離職した労働者は年末賞与を受け取れないことになっていたとしても、雇用契約の終了が労働者の一方的な過失または自発的な退職によるものではなく、かつ労働者が年間の作業任務を完了しておらず、使用者が労働者の実績が年末賞与の基準を満たさないことを証明できない場合は、人民法院は労働者の年末賞与支給請求を支持しなければならない」

4 実務上の留意点

まずは就業規則に明確に在籍支給日要件を定めておく必要があります。その上でリストラや会社の移転などにより会社都合で退職したと言えるような場合は、在籍期間や貢献度に応じて、退職時に話し合いを行い、賞与額も含めた合意退職を目指す方が良いと思われます。