PDF版はこちら → 人事労務通信 2023年9月号
実は同じテーマを2015年6月号に書きました。あれから8年以上が経ち、各種の前提条件が大きく変わっているので、修正して再掲したいと思います。
人事というテーマは、特に海外法人においては「営業」「生産」「財務」に比べるとつい疎かにされがちで、まあ取りあえず、仕事をしてくれる人数が確保できていれば、という程度で、おざなりにされてしまっているケースがあります。
コンサルタントの実感でも、また各種の研究結果を紐解いても、人事がしっかりしていてエンゲージメントの高い会社は、そうでない会社より、売り上げも利益も数倍は高いという現実があります。実際に人事政策が経済的な価値に反映されているのかどうかは、すぐには見えにくいということもありますので、これを下表のように試算してみました。
試算の前提条件は、従業員100名、平均人件費10,000元/人月、労働分配率50%としました(かなり控えめです。実態は給与1なら労務費総額は1.5以上ですし、給与に対して2倍の付加価値では収益的にかなり厳しめの企業だということはお判りいただけると思います)。
① | 採用ロス | 年間4名余計に辞めるとする | 約200万円 |
② | 育成ロス | 上記4名に掛かる育成のロス | 約200万円 |
③ | 現地化の遅れ | 日本人2名が過剰 | 約1,000万円 |
④ | 業務パフォーマンスの低下 | 社員の6割が20%の効率ダウン | 約5,600万円 |
年間のロス合計 |
7,000万円超 |
➀採用ロス:人事が不備な会社では辞める人が多くなり、採用し続けなくてはなりません。年間5人離職者がでれば、1人しか辞めない会社と比べ毎年4人分の採用費(一人2万元として8万元)が余計に掛かります。総経理や幹部社員の面接時間や人事の事務処理時間も考慮すると、少なくとも200~300万円以上のコスト増となっています。
➁育成ロス:研修費用なども別に掛かるのですが、新入社員が仕事を覚えるために必要な時間と、それを教える先輩社員の業務効率の低下は避けられません。それなりに仕事のできる社員4人が新人に入れ替わり、仮にキャッチアップに2ヶ月掛かるとすると、その間の本来のパフォーマンス(付加価値)は人件費×労働分配率の逆数で20,000元×2カ月で、その間の効率低下を仮に50%、指導担当者4人が指導のために10%の効率低下を起こすとすれば、(20,000元☓4人☓50%+20,000元☓4人☓10%)☓2ヶ月分で、ここでも10万元(約200万円)の逸失利益を発生させています。
➂現地化の遅れ:今、日系企業では盛んに「現地化」という声が聞かれます。が、現地人幹部がなかなか育たない、ちょっと育つと辞めてしまうという状況だと日本人駐在員を帰任させられないということが続きます。育成ができていれば日本人ひとりで済むはずのところ、3人置いている会社は、2人分が過剰です。優秀なローカル幹部との差額(給与だけでなく、各種経費、帰省費用など諸々)は約500~1,000万円になると言われます。
➃業務パフォーマンスの低下:全社員の上位2割は状況に関わらず高パフォーマンス、下位2割は常に発揮能力が低いと言われます。そして真ん中の6割の人材は、低エンゲージメントによりテキメンにパフォーマンスを落とします。この効率ダウンは5割とも7割とも言われますが、控えめに2割と設定して20,000元☓20%☓60人☓12ヶ月=288万元(5,600万円)の逸失利益となっている計算です。
如何でしょうか。100人規模の企業で、控えめな試算でも毎年6~7千万円くらいの利益を、人事不備により失っているのです。さらに社風が荒れることなどで発生確率が跳ね上がる「係争リスク」は、補償金や弁護士費用、幹部陣や本社社員による対応時間、操業停止に伴う損失や顧客への賠償、諸々で、通常3千万円~1億円にものぼります。決して看過してよいリスクではありません。
是非、貴社の人事がきちんと機能しているか、風土は健全か、チェックしてみられることをお勧めいたします。