PDF版はこちら → 人事労務通信 2022年5月号
4月から上海で厳しいロックダウン政策が実行され、市民生活や企業運営等に、大きな影響を与えています。すでに1か月以上封鎖されている地域もあり、いつまでに解除されるか、今後のめども明確に立ちません。エリアごとに解除されるため、ロックダウンが解除されても、全従業員が普通に出勤できない可能性が予想されます。一部企業が全員の安全を図るため、隔離終了の証明やPCR検査結果の提出を要求しています。会社の要求に従わず、勝手に出社する従業員に対し、懲戒処分等を下すことができるでしょうか。2020年に以下の判例がありました。
2020年、コロナ感染が中国で拡大する最初の時期に、中国各地でロックダウン政策が実施されました。上海のある会社は「外地から上海に移動してきた従業員は、上海で14日間隔離した後、会社に出勤できる。」と全従業員に通知しました。ある従業員は外地から上海に戻ってきた後、給与が減らされることを心配し、勝手に出社しました。会社の確認に対し、すでに14日間の隔離が終了したと、不実な申告をしました。その後、同僚から告発され、上司が退社を要求しましたが、当該従業員がマスクを外し、上司と大喧嘩しました。最終的に会社のセキュリティが当該従業員を強制退社させました。
後日、会社から労働規律の厳重違反を理由として、当該従業員を懲戒解雇しました。従業員が労働仲裁を提起し、違法解雇の認定を求め、2Nの経済補償金の支払いを要求しました。
結論から言うと、労働仲裁は最終的に従業員側の訴求を却下し、会社の懲戒解雇は合法と判断しました。争論の中心は、会社が出した通知は会社の労働規律に該当するかどうかに集中しました。労働仲裁の意見は、「会社から出した通知では、隔離終了証明やPCR検査結果の提出を違反する場合、重大規律違反行為とみなすと、明確に定めています。通知も当該従業員を含む会社全員に公示しました。就業規則等会社の規程を改定しなくても、コロナ防疫の特別時期では、当該通知が有効とみられます。」と明示しました。
さらに、労働仲裁から「仮に会社は通知しなくても、従業員は社会的公序良俗を順守しなければなりません。当該従業員は隔離場所から勝手に離脱し、かつ会社に不真実な申告をし、マスクを外して周囲と喧嘩する行為は、社会全体のコロナ対策に、大きな悪影響を与えてしまいます。」と、社会的な観点から仲裁判決の根拠を表明しました。
上記仲裁は、コロナ禍の中、かなり典型的なものになっています。特に、現在コロナ対策は中国の政治任務として、非常に重視されています。それに危害を及ぼす行為は社会的バッシングだけでなく、違法行為と見なされる可能性が高いです。会社側も生産経営に対する影響をできるだけ軽減するために、業務活動と社会防疫要求を両立するための対策を検討し、全従業員に通知することが望ましいと考えます。