【2021年10月】残業代込みのパッケージ型賃金制度の有効性

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今月は中国の一部企業で導入されているパッケージ型賃金制度(包薪制)について紹介致します。

1 事案

周は20207月に自動車サービス会社に入社し、雇用契約では「月給4,000元(残業代を含む)」と取り決めました。20212月、周は一身上の都合により雇用契約の解除を申し出ましたが、「最低賃金以上の賃金は受け取っているが、残業代は全額支払われていない」と主張し、差額の支払いを求めました。 自動車サービス会社は、周が残業した事実を認めましたが、雇用契約で合意した月給にはすでに残業代が含まれているという理由で支払いを拒否しました。 周は、自動車サービス会社に未払い残業代17,000元の支払いを求め、労働仲裁委員会に仲裁を申請しました。

2 仲裁結果

仲裁委員会は、自動車サービス会社が周に時間外労働の差額である17,000元を支払うべきであると決定しました。 

3 解説

この事案では、自動車サービス会社が、給与パッケージ制度の導入を周と合意していましたが、それでも法律に基づいて周に差額の残業代を支払う必要があるかどうかが争点となりました。

中華人民共和国労働法第47条では、「雇用単位(使用者)は、当該単位の生産・操業特性および経済効率に応じて、法律に基づき、当該単位の賃金配分方法および賃金水準を独自に決定しなければならない 」と規定されています。同第48条では、「国は、最低賃金保証制度を実施する」と規定されています。上記の規定から、使用者は従業員との合意により自由に制度を決めることができるものの、最低賃金の保証と時間外労働の支払い基準に関する法律の規定に違反してはならないことがわかります。

この事案では、周の実際の労働時間によると、周の法定標準労働時間の賃金を現地の最低賃金基準に基づいて決定し、それに基づいて残業代を計算しても、合意した賃金である4,000元を上回っており、自動車サービス会社は法律に基づいて周に残業代を全額支払っていないことになります。 そこで、仲裁委員会は自動車サービス会社が周に差額の残業代を支払うことを認めました。

4 実務上の留意点

日系企業ではまだあまり見られませんが、一部の企業では残業代込みのパッケージ型賃金制度を導入しています。本事例のように給与総額を定めて、実際の残業時間に関わらず一切差額の残業代を支払わないことは違法になりますが、標準労働時間に対する賃金と毎月定額で支払う残業代を明確にし、実際の残業代と毎月定額で支払っている残業代との差額を支払うという仕組みは認められるのではないかと思います(日本の定額残業代制度と同じ)。ただし、この場合も法令に従い計算し、実際の残業代との差額を毎月支払わなければなりません。導入する際は注意いただければと思います。