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今回は、心理的安全性について書きたいと思います。昨今、あちこちで見聞きするようになったので、興味をお持ちの方も多いのでないでしょうか。
結構、誤解されていることの多い概念で、否定的な論を耳にすることも多いですね。曰く、
? 人間は修羅場を経験しないとホンモノにならない(安全な環境で成長なんてできるもんか)
? 「何でも言って良い」といって、給料上げろばかり言われても困る(どこまでワガママ聞けというのか)
? 安全というのは結果であって、作ろうと目指すものではない(手段を選ばないと弊害が大きい)
などなど。3つめなどは、かなり考えられている人の意見だなあとは思います。
ただ、プロフェッショナルのはずの人事コンサルさんでも、「以前から言われていることをちょっとアレンジしただけの概念」など、ご自身の勉強不足を堂々と開示される方がいてびっくりすることがありますね。
閑話休題。
マズローの5段階欲求説というものがありますが、その一番下の欲求は、よく知られているとおり「生理的欲求」。「食うために働く」というのは、生理的欲求によって動いている状態です。二番目が「安全欲求」。規則や上司の命令等に従わせ、正しく行動しないと叱られるという状態。そして、三番目の「社会的欲求」は、うっかり変なことを言うと馬鹿にされる、仲間はずれにされるなどを恐れ、黙って粛々と仕事をするようなっていく、という状態です。
こうした社員さんは決まった仕事はできても、大きくパフォーマンスが上がることはなく、また創造的かつ主体的な仕事はできないだろうことは、容易におわかりかと思います。では、その上の段階に上がって貰うためにはどうしたらいいでしょう。
簡単ですね。「食うのに困らない(第一段階:生理的欲求)」「リスクに晒されない(第二段階:安全欲求)」「仲間はずれにされない(第三段階:社会的欲求)」というところに留まる必要がないように、既に1~3は満たされた!という環境を提供してあげればいい。これが心理的安全性が確保された状態ということなのですが、これらが満たされると、全員とは言いませんが、大半の人材は「尊厳欲求:みんなからすごい!といわれ(る仕事を成し遂げ)たい」「自己実現欲求:もっと成長して自分らしく(仕事を)したい」という段階に上がっていきます。
中国はすっかり豊かになりましたので、会社で第四段階、第五段階の欲求が満たされなくても、実は社外にそうした機会が沢山あります。つまり、経営者がここを意識し、会社の仕事を通じて第四、第五段階へ上がれる環境を提供できなければ、せっかくの人材の能力は仕事に活かされることなく、それぞれ別のところへ向かってしまうということになります。仕事で第四、第五段階に上がりたい人は転職するでしょうし、仕事だけが人生ではない、と考える人は、ボランティアや趣味に走って行きます。
そして、今いる会社では、「お金さえ貰えれば良い」「リスクさえなければいい」という付き合い方になる訳ですね。御社の人材は、如何でしょうか?ウチの社員達はどうして自分で考えてくれないんだろう、主体的にアイデアを出してくれないんだろう、とお悩みでしたら、是非、自社の心理的安全性がどうなっているか、確認してみてください。
今号も最後までお読みいただき、ありがとうございました。