1 日本と中国の違い
中国では従業員が重過失や故意行為により会社に重大な損害を与えた場合、会社がその行為を処罰することができます。解雇も可能なのですが、その損害の基準となる金額を就業規則に定める必要があるとされています。
具体的な金額が無いと「重大な損害」とまでは言えないとして会社が敗訴することがままあります。日系企業では日本の就業規則を基にして作成することが多いため、損害の基準となる金額を書いておらず、解雇に踏み切ることができない場合があります。
では窃盗行為などの社内犯罪行為についてはどうでしょうか。
以下の事例は窃盗の解雇対象損害金額を記載したことが却って解雇無効の根拠になった事例です。就業規則の重要性が分かると思いご紹介致します。
2 事例
王は2013年7月にA会社に入社し、操作工の仕事をしていました。2019年5月18日、王は盗難防止ネジ10個を無断で工場外に持ち出し、会社に発見されました。会社の就業規則では「会社の財物又は個人財物を窃盗又は協力した場合,盗品価値が500元を超えるものは解雇処分を与える」と規定していました。
2019年7月5日、会社は王の解雇処分に関する決定を行いました。決定書には「王が2019年5月18日に盗難防止ネジ10個を盗み、そのネジは1445.30元の価値があるため、就業規則の規定に基づいて、解雇処分を与えた」と記載されていました。
一審裁判所は、解雇を無効であると判断しました。
その理由として以下の理由を挙げました。
中華人民共和国労働契約法第39条第2項は「労働者が使用者の規則制度に深刻な違反をした場合、使用者は労働契約を解除することができる」と定めている。
規則制度に深刻な違反をしたかどうかは就業規則に定めた基準により判断するが、会社の提出している盗難防止ネジ10個が盗難した物そのものかどうかも分からず(王は「このネジは盗んだものではない。もっと古いネジを盗んだ」と主張)、伝票のみの存在で盗難防止ネジ10個が500元を超えているかは証明できていないため、規則制度に深刻に違反したとまでは言えない。
二審判決も同じ理由で解雇無効と判断しました。
3 実務上の留意点
「会社の品物を盗んだのだから解雇は当然では無いか」と皆様は思うかもしれません。しかし、中国の場合、就業規則の基準により解雇に値する損害額が出たかどうかを判断する傾向が強く、就業規則の記載が非常に重要になります。
仮にこの会社が窃盗の処罰対象となる損害額を就業規則に記載しなかった場合、解雇が有効になった可能性があります。却って金額を書かない方が良い場合もあるのです。何ともやりきれない事例ですが、一度皆様の会社の就業規則を確認しても良いかと思います。
事件番号:(2020)吉01民終2998号(当事者仮名)