【2019年8月】中国で従業員のリストラができるか?

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最近、中国東莞で飛び下り自殺の未遂事件がありました。理由を問い詰めたところ、会社の上司が残業をさせてくれないことが原因だったそうです。予想外の理由で冗談に聞こえますが、実際日系企業では、残業に起因するトラブルが増えてきています。しかもその理由がこれまでとは大きく異なってきました。今までは残業時間が長く、残業代が少ないことが理由でしたが、最近は会社の生産減少に伴い、残業時間が減り、収入が大幅にダウンすることを原因としたトラブルが多発しています。
このようなトラブル多発の背景には、中国経済の成長スピードの鈍化があると考えられます。特に2019年に入ってからは、米中貿易摩擦の影響もあり、在中日系企業へのダメージが大きくなって、収益が一気に悪化する会社が少なくありません。一部の中国地方政府では、リストラをしない会社に補助金を導入し始めているということも、経済成長鈍化の証だと考えられます。
そうした環境の中、一部日系企業も、従業員のリストラなどのコストダウンを検討し、危機を乗り越えようとしています。中国では、人員整理するために、よく使われる手段として以下のものがあります。
1. リストラ
中国の労働法では、会社が経営困難な状況に陥った場合、リストラを実施することができると定めています。ただし、20名以上、或いは会社全体の10%以上の従業員をリストラする場合、会社は組合に相談し、且つ労働監督局に補償案などを登録しなければならないと規定されています。しかし、労働監督局はストライキなどの集団事件を避けたいため、会社のリストラに対し、非協力的な態度であることがほとんどです。
このため、多くの会社はリストラではなく、労働契約の協議解除という形を利用しています。法定のリストラで従業員を解雇すると、法定の経済補償金が発生しますが、法定の金額に、さらに20%ほどの補償金を上乗せすると、従業員にも比較的に受け入れられやすく、穏便に解雇することができるケースが多いようです。
2. 生産中止
「上海企業給与支払弁法」という地方法律では、会社が生産停止する場合、最初の1ヶ月は満額の給与を支給する必要があるが、そのあとは従業員と協議し、上海市の最低賃金を下回らない給与を支払うことを認めると定めています。業績悪化が短期間の場合、この方法は、従業員を維持すると同時に、人件費を節約できる、有効な方法だと考えられます。
さらに、生産中止は減給交渉のカードとしても活用できます。中国で減給するためには、従業員本人の同意が必要で、非常に困難です。しかし会社が経営困難の場合、減給するか、生産中止して最低賃金をもらうかと、従業員に選択させると、減給に同意する人も増えます。2015年造船産業の景気悪化が激しいとき、多くの中国系企業は生産中止と減給の方法を合わせて利用し、結果給与の大幅カットを実現しました。
3. 離職勧誘(希望退職)
対象部門の従業員が自ら離職申請を提出する場合、高額な補償金を支給すると通知し、離職を促す方法が欧米系企業ではよく使われます。日本でも2000年代以降、多く使われた手法で「優秀な人材ほどやめるリスクが高い」「補償金が高額」などのデメリットがあるものの、スピーディーに人員整理を実現できます。
 
以上のように、業績悪化の局面を打開するために、人員整理は有効な手段の一つとして考えられます。そして、人員整理は決して最後の手段ではなく、経営再建の準備手段の一つとして、会社の余力のあるうちに検討したほうが運用しやすいと考えられます。