中国の会社では「企業カルチャー」という言葉が盛んに使われ、それを全従業員に徹底するため、多大な費用が投下されてきました。ただし、この言葉の定義はかなり抽象的で、言語で明確に表現することは困難です。大枠でまとめると「物事に対して、大多数の従業員が持つ共通的な考え方」と言うことができます。
例えば、月給2万元の従業員が病気になり、法律をどう解釈するかによって、毎月満額の給与の2万元を支給するか、あるいは上海市の平均給与の6千元を支給するか、という判断が必要になったとします。この場合、貴社の中国人従業員はどう考えるでしょうか。以下の2種類の考え方がよく見られます。
1. その従業員は会社に長く勤めているので、会社から優遇されるのは当たり前。全額の給与を支給すべき。
2. 出勤していない間は会社への貢献はないので、満額の給与を支給するのはおかしい。支給するならば、上海市の平均給与にすべきだ。
上記2つの考え方において、どちらが「当たり前」なのかは経営者が明確な答えを持っています。従業員の考え方が経営者と一致すれば会社の判断を徹底しやすいですが、経営者と異なる考えを持つ従業員に、会社の判断を納得させるためには多大な工夫が必要です。場合によってはストライキなど、大きなトラブルが発生するリスクも考えられます。このような多数の従業員が共通して持っている考え方が「企業カルチャー」となり、会社の経営管理の様々な場面で表れてきます。
「企業カルチャー」は会社の潤滑油的に経営管理を促進してくれますが、時には会社命令の徹底を阻害し、組織崩壊をもたらしてしまいます。特に、諸外国と比較し中国では「企業カルチャー」の重要性が一層高くなります。例えば、日本では、「サラリーマン文化」が社会的に統一されており、どの会社に行っても基本的な考え方は似通っています。しかし、中国ではここ数十年の短い期間で、計画経済、市場経済、国有企業、欧米企業、日系企業など、多くの考え方が同時に存在しており、さらに近年の個人主義の増長で、人々が共通の考え方をなかなか形成しにくいというのが現状です。このため、従業員は入社してから初めて「社会人としての基本」を学び、自分なりの「企業カルチャー」を形成していきます。
「企業カルチャー」は会社側が一方的で形成するものではなく、会社の経営管理に携わるすべての人が参加し、共に形成していきます。ただし、会社側が積極的に参与しながら誘導する必要があり、その際に以下の方法が有効だと考えられます。
1、 会社の各種制度、規程を作成し、各種条件を設定する理由を明確にし、従業員の立場から説明する。一部日系企業では、本社や他社の制度を持ち込み、簡単に調整しただけで導入している。そうした場合、経営者を含め誰も各内容を設定した理由を説明できず、従業員の納得を得ることができない。
2、 現地管理者の能力を高め、会社の経営管理に参加させる。一部日系企業では、現地管理者はあくまでも会社命令を徹底させるために存在しており、会社命令が下されるプロセスに参加していない。その結果、管理者は会社の意思を部下に伝えることができず、ただ「上からの命令」の一言で強引に会社命令を徹底させようとしてしまう。
3、 朝礼・会議・掲示板などを活用し、経営者・管理者・従業員間のコミュニケーションを強化する。会社の指示命令の具体的な背景や理由を知らないとき、中国人従業員は「会社が自分の利益を侵害しようとしている」と推測することが多い。従業員の誤った憶測を防ぐためには、透明性の高い会社環境を構築する必要がある。