先日閉幕した中国全人代では、中国財務部部長が個人所得税制度改革の方針と進捗
状況を発表しました。現行税制度では、富裕層の方が逆に納税が少ないことや、個人
所得の免税金額が実際の物価水準に合致しないことなど、多くの不備が指摘されてき
ました。
個人所得税制は個々の国民の生活に緊密に関連するため、今回の全人代での発表は
注目されています。
●現行制度の状態:
現在の個人所得税制は、2011年に改定されたものです。2011年の改定では、
免税金額を従来の2,000元から3,500元に引き上げ、納税率の累進等級が従来の9等
級から、7等級に改定されました。
2011年の税制改革では、低所得層の負担を軽減し、高所得層により多くの税金
を負担してもらうために行われたが、国民の納税意識の欠如や、高所得層の収入源
の多様化などの中国社会の実情があり、結局税負担は中低所得層の一般労働者に
集中してきました。
●税制改革の方針:
今回の個人所得税改革の焦点は、主に以下の3つに集中されています。
①年末所得調整制の導入
現行制度では、毎月の収入を対象とし、個人所得税を徴収してきました。月次
収入に対する調整は、せいぜい業績賞与支給時の税額計算ぐらいでした。今回
の改革で、当年度に発生する各種所得を、年末に合算し、税金調整を行う制度
を導入する事が検討されています。
②控除制度の導入
今までの中国個人所得税制には、必要経費の控除制度がなく、家族に介護が
必要な老人が居ても、税金は変わりません。実際生活が困難な国民の負担を
軽減するために、今回の改革では必要経費の控除制度の導入が検討されてい
ます。 また、控除制度を導入し、二人目の子の出産を促進する目的もあり
ます。
③免税金額の引き上げ
現行制度では、個人所得税の免税額は3,500元と設定されています。この金額
では、現在の物価水準で生活維持できないと指摘され、免税額の引き上げが検
討されています。
●日系企業に対する影響:
企業にとって、今回の個人所得税制度の改革は煩雑な手続きを強いられることが想定されます。さらに、一部手取給与を約束する日系企業は、より面倒な処理が必要となります。特に、免税額が引き上げられる場合、本来税金分は会社が負担するため、個人所得税の増減があっても従業員の手取給与が変わりません。ただし、従業員側から自分の税金が免除されたため、その分は給与として支給すべきと主張してくる可能性が高くなります。手取給与を約束する企業に対し、今回を機にグロス給与制度の導入をお薦めします。