【2017年4月】中国の事業所移転問題

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1 最近の傾向
最近、中国政府は中国全土で厳しい環境規制に基づいて環境施設を厳しく取り締まるようになってきましたが、特に上海市でもその傾向は強く、上海市近郊の工場を移転せざるを得ない状況が増えてきました。また、上海市の土地の値上がりも影響してか、上海市は土地の緑化計画を進めており、工業用地を宅地に変更して工場を立ち退かせる事例も出てきました。


2 中国人従業員の感覚
事業所が省や市をまたいで移転する場合はもちろんのこと、上海市内で事業所を移転する場合であっても移転先での勤務を拒絶するケースがあります。もちろん上海市といっても広いので事業所の移転も様々なものがありますが、例えば片道30分通勤時間が伸びる場合であっても、大騒ぎになり移転先での勤務を拒否する従業員が多数出てくることになります。中国の場合、多くの中国人従業員は通勤時間が増える=賃金の発生しない拘束時間が増える、とシビアに事業所移転を考える印象を受けます。
また、多くの中国人従業員は、自分の持ち家や家族との生活環境を大切にするので容易に現在の住所を離れることはありません。そのため、事業所移転の場合、日本人経営者の想定以上の退職者が出て多額の経済補償金が発生することがあります。


3 経済補償金が発生する基準
労働契約法は、労働契約法46条1号、同38条1号にもとづき、会社が「労働契約の約定どおりに労働保護又は労働条件を提供しない場合」、労働者は会社を退職することができ、かつ経済補償金を請求することができるとしております。
では会社が「労働契約の約定どおりに労働保護又は労働条件を提供しない場合」とはどのような場合を指すのでしょうか?
これが裁判例を調べても明確な基準がありません。少なくとも通勤時間がこれまでより車を運転しても片道1時間長くなるような場合は経済補償金が発生すると言えますが、会社が通勤手段(バス)を提供したか、始業時刻・終業時刻やシフト勤務について従業員の希望に応じて柔軟に設定できるか等で判断が分かれるようです。
ただし、労働契約法も重要ですが、遠距離とも近距離とも言い難い微妙な距離の事業所移転の場合、一番重要なのは中国人従業員の感情です。大量の中国人従業員が工場移転を不安に思い退職を決意した場合、その流れを止めることはできません。会社が通勤バスの整備などを提案しながら話し合う必要があります。