春節期間を経て爆発的な感染の増加を見せた新型コロナウィルス(COVID-19)により、深刻な影響が見られます。本稿執筆時点[i]では、既に湖北省を除く全地域で春節休暇が終わり業務再開時期に入っていますが、厳格な防疫措置により、工場再開に(現地調査を含む)当局の事前許可を要する地域、無錫市を始めとした一部地域での湖北省を含む7省からの人員を流入させない措置[ii]、或いは区域やマンションごとでの外地からの帰任者に対する隔離措置などの各種の制限により、工場の再開時期の遅延が多く見受けられています。
このような状況下、現地法人を含む中国企業の業績や資金繰りに影響を与える各種の政策が公表されています。
本稿では、労務、ビザ関連と外貨管理から特に重要な規定を、以下の通り、各1つずつに絞りご紹介します。
1. 労務に関する規定:~感染者、疑似感染者、濃厚接触者の解雇を禁止~
2. 工作許可証の更新期限にかかる緩和措置
3. 外債登記枠の取消
1. 労務に関する規定:~感染者、疑似感染者、濃厚接触者の解雇を禁止~
「新型コロナウイルス感染の適切な処理にかかる肺炎拡大防止期間の労働関係問題に関する通知」(人社庁発明電[2020]5号)[iii]では、罹患した、或いは疑似感染者、濃厚接触者となった従業員の労働契約解除の禁止や、業務停止期間中の従業員に支給すべき賃金等について定めています。
Ø 感染者、疑似患者、濃厚接触者が隔離治療期間或は医学観察期間及び政府の実施する隔離措置或いはその他緊急措置により正常な労働を提供できない従業員に対し、企業は当該期間の労働報酬を支給しなければならず、労働契約法第40条、41条に基づき[iv]、と労働契約を解除してはならない(後略)。 Ø 企業が感染拡大の影響を受けて生産経営が困難な場合、従業員との協議一致を経て賃金調整、シフト勤務、勤務時間短縮等の方式で職場を安定させ、可能な限り人員削減をしないか或いは削減を最小にする。 Ø 企業の生産経営停止が一賃金支給周期以内の場合、企業は労働契約に規定する基準で従業員に賃金を支給しなければならない。 |
2. 工作許可証の更新期限にかかる緩和措置
現在、外務省の海外安全情報によるアラートの引き上げなどもあり、駐在員に対して中国への再入国を制限する或いは帰任させる等の措置を採る企業も多く見受けられます。このような状況下、一時帰国中に工作許可証や居留許可証の期限が至近の外国籍人員に対して、以下の緩和的措置が公表されています。
(1) 工作許可証の更新:
「外国人来華工作許可の許可延長申請期限の暫定的取消に関する通知」[v]との緩和措置が公布されました。 同通知では、“工作許可証期限の30日以前に延長手続きを行うとの制限を暫定的に取消し、雇用企業は同許可証の期限到来前にオンライン申請できる”と通知しています。但し、あくまでも“期限到来前に手続きを行う”ことが前提であり、更新手続き未済の駐在員を有する企業は至急の対応が必要です。
(2) 居留許可証の更新:
「感染状況の予防と抑制期間にかかる移民と出入境管理業務の問題解答」をHP上に公開しています[vi]。
Ø 大学、科学研究機関、企業など、多数の外国人を招聘している機関の場合、出入国管理部門は、手続きの必要性に応じて、代替的な手続きを許可するか、その他の必要な利便的措置を提供する Ø 関連法律規定と現在の状況に基づき、感染状況により、出国時に即時にビザ、居留許可の延長手続きができなかった場合、当局は居留期限切れの処罰を軽減或いは免除できる |
この代替的措置について、弊社の(東京)ビザセンター等へのヒヤリング結果は、以下の通りです。
Ø (外国人工作証の)カード上にあるQRコードのスキャンデータ及びカード裏表のコピー Ø 状況説明書/状況理由書をビザセンターに提示すれば“Zビザ”が発給され、再入国後に同ビザによる居留許可証の更新が可能 Ø (あくまでも、緊急避難的な措置である為)通常のZビザの新規取得とは異なり、無犯罪証明や学位証明書など、上記以外の書類は不要 |
尚、同ビザセンターでは本件“Zビザ”を取得するよう指示ありました[vii]が、現地法人が所在地の出入国管理部門等に直接問い合わせ、上記とは別の利便的措置を提示された例も見受けられます。
従いまして、上記で緩和措置が採られているものの少なくとも工作許可証の更新は必須であり、更に居留許可に関しても本件“Zビザ”の取得など何らかの手段が必要と考えられます。この際、まず現地法人等を通じて、所在地の出入国管理部門等に対し問い合わせを行いその指示に従い、本件“Zビザ”か、LビザやMビザなどの一時ビザで対応すべきか、或いは他の利便的措置に従うかの事前確認により、手続きの確実性は更に高まると思われます。
3. 外債登記枠の取消
外資企業の海外調達方式は、投注差枠とマクロプルーデンス管理方式(純資産の2倍)に大別され、従来方式且つ企業の主流が投注差方式を採用しています。このうち、投注差方式に関して「外貨政策のグリーンチャンネルを構築し、新型コロナウイルス感染状況の防止、抑制に関する通知」(匯綜発「2020」2号)[viii]との緊急措置が公布されています。
まず、平常時には投注差方式であれば、以下の通り、“投注差”枠を限度額として海外からの資金調達が認められます。更に、本通知では“コロナの防疫に確かに必要性がある場合、外債限度額を取消しできる”との条項が含まれています。
【通常の外債登記枠及び本通知の資金調達可能枠】
一方で、本通知は緊急避難的な措置であり、且つ以下等に留意する必要があります。
Ø 資金使途:コロナの防疫に確かに必要性がある場合(疫情防控確有需要的) Ø 調達可能額:(個別審査により決定されると思われる) Ø 当該措置期間及び要返済期間:(個別審査により決定と思われる) |
金融機関へのヒヤリング等より、資金使途は“感染状況の予防、抑制に確かに必要性がある”に直結する、例えば“マスクや防護服の製造”等に関連する場合には許容される可能性が高いものの、“ワーカーが揃わず工場が再開できない”、“一部の業務しか再開できず資金繰りが逼迫した”等では、容認されない可能性も十分に予想されます。また、本件については外貨管理局が当該借入の可否を個社別に判断する(匿名照会は不可)とのことであり、資金使途が限定的である可能性の上に、調達可能金額等についても個別に審査されるものと考えられます[ix]。
従いまして、今後の実務運用を見極める必要があるものの、一部の例外企業を除けば資金使途の厳格さ等を勘案すると、日本本社側では外債登記枠内での利用や増資での対応がより確実性は増すものと考えられます。
尚、本件に限らず、外貨管理局への照会が急増している模様であり、また本稿執筆時点では移動制限等など各種の措置が採られる状況下で、金融機関のバックオフィス対応も制約があると考えられます。従いまして、親子ローンにかかわらず現地法人の資金調達や増資については、金融機関への早めのご相談をお奨めします。
また、本稿では取り上げていませんが、各種の移動や操業に掛かる制限に加えて、奨励策なども省レベルや市レベルで公布されています。更に、今後も状況の変化と共に、各所管部門から様々な制限策/緩和策/支援策等の公布が予想されます。日本本社としてもこれらの情報を適時に現地法人に提供すると共に、上記の論点に加えて、駐在員や現地スタッフの保護や処置、生産・経営への影響の最少化など、通常時以上のサポートや判断が必要と考えられます。
[i] 本稿は2020年2月20日時点の情報を基に作成。
[ii] 無錫市規定の中国語タイトルは「関于進一歩加強疫情防控期間外来人員流動管控的通告」(第 7 号)。
[iii] 本通知の原文URLは以下の通り。
URL: http://www.rsj.sh.gov.cn/201712333/xwfb/zxdt/00/202001/t20200124_1302965.shtml
[iv] 労働契約法の原文URLは以下の通り。
URL: http://www.npc.gov.cn/npc/c198/200706/d0fdd4a090ce46e3b3a8b26f45222039.shtml
[v] 本通知の原文URLは以下の通り。
artId=bb7f31eb701db12e01701dcd9cfa000a
[vi] 原文URLは以下の通り。
URL:https://gaj.sh.gov.cn/crj/moreAndxx/媒体聚焦/xxxx/8DBBE09A3CC64CC88FBE54BC8A84B4B7
[vii] 但し、“Zビザ”は就業者に対して発給されるビザである為、帯同家族の取扱いは別途異なり、再入国の際の対応方法については、事前に現地の出入国管理部門に確認する必要があり、注意が必要。
[viii] 本通知の原文URLは右記の通り。URL:http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2020-01/28/content_5472691.htm
[ix] 尚、本件では既に上海市など一部地域では外貨管理局の地方分局が資本項目ガイドラインを策定済であり、上海市ガイドライン
(国家外貨管理局上海市分局疫情防控期資本項目業務便民指南)の原文URLは以下の通り。
URL:http://www.saefi.org.cn/u/cms/www/202002/030537229brb.pdf