2015.11.01
営業企画部 片瀬陽平
第5回
日本本社におけるマネジメントフィーの回収
さて、国際税務通信の第5回の今回は「日本本社におけるマネジメントフィーの回収」について記載しようと思います。多くの国に展開している多国籍企業については、日本本社のマネジメントフィーの回収が日本又は各国の税務調査の際に指摘されている現状があります。形式と実態など各国の担当官により解釈の違いがある場合もあり一概に言えない部分ではありますが、下記内容を確認してみていただければと思います。
<概要>
1.日本本社はグループ全体の事業計画(予算)の策定、人事規程の策定、財務管理などのマネジメントを行っている。
2.当該マネジメントの対価として各国の売上金額の1%をマネジメントフィーとして回収している。
3.昨今、タイの税務当局より、当該マネジメントフィーに対して対価性がない旨を指摘され、否認された。
4.当該マネジメント契約に関しては、全世界一律の契約書フォームによって行われ、タイにおいても各国の契約書と同様の内容で記載されている。
5.今後、タイにおいてはマネジメントフィーの回収を行わない方向で決定しているが、契約書の修正は特段行わない予定である。
6.各国の財務状況は健全であるが、一部の国においては赤字が続いている。
7.日本の税務調査においては特段の指摘を受けていなかった。
<解説>
多くの日系企業は日本における国際税務リスクの対応しか行っていないため、上記のように日本の税務調査においては特段の指摘を受けていないものであっても、各国の税務調査の際に指摘を受けてしまうことが多くみられます。
上記の例では、タイの税務当局から指摘を受け、今後タイにおいてはマネジメントフィーの回収を行わない方向で決定していますが、これが日本の税務調査において問題となることはないのでしょうか・・・
このように日系企業は各国の税務調査で指摘を受けた際に、その内容に従ってビジネスの内容を変えてしまうことがありますが、後手に回ってビジネスの内容を変えてしまいますと、後々日本の税務調査により改めて指摘を受けてしまう場合があるので注意が必要となります(逆もしかりです)。
それでは上記事例においては、日本でどのような指摘を受ける可能性があるか検証してみましょう。
①契約書に記載されている金額が未回収であるために、確定債務を意図的に回収していないとして未回収金額を寄附金と指摘される可能性は?
※上記について、日本において未収計上した上での未回収であれば、寄附金と指摘されるリスクはありません(利息は別です)。問題となる可能性があるのは日本において収益計上をしていない場合です。
②引き続きタイの事業計画(予算)の策定、人事規程の策定、財務管理などのマネジメントを日本本社にて行っていくが、対価がないとして適正な対価の額を寄附金として指摘される可能性は?
①の契約書の通りに取引がなされている場合、②の対価を回収している場合には、移転価格税制に基づいて判断されることとなりますが、確定債務を免除している場合や対価の収受を行っていないと判断される場合には寄附金とされる可能
性があります。
ここで重要なことは、「タイ当局によって否認されたという事実」が寄附金否認されないための論拠として日本当局には通じないということでありますが、税務調査においてこれを理由として語ってしまう日系企業は非常に多くあります。このような理由を語ってしまうと本来請求すべき金額と理解はしているが、それをタイ当局の指示に従って請求をかけていないと捉えられかねませんので、ビジネスの内容を変える場合には、それに基づく理由を考える必要があります。
また、それに併せて契約書を修正しなければ形式と実態が異なることとなり、こちらもリスク項目(形式に合せて寄附金と指摘される可能性と実態に合わせて寄附金と指摘されるリスクが混在)となりますので注意が必要です。そのためにどのように形式と実態を合わせるべきかについては、各国の状況と税制を検証する必要があります。
今回の事例に関しては、前提として日本でマネジメントを行っている事実はあるためにタイで指摘された段階で本来であれば争うべき項目と思われますが、発展途上国の多くは未だに税制が発達しておらずに否認されてしまうことが多くあります。このような事実はあるものとしながらも、会社としてどのようにプランニングを行っていくか、多国籍企業は全体最適の観点から考えなくてはならないのです。