ネガティブフィードバック
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前号(21年12月号)でカルチャーマップについて書いたところ、その中の「ネガティブフィードバック」についての質問を複数いただきました。皆さん、部下の指導ではやはり同じようにお悩みなのだなあと思います。
すこし復習しておきますと、カルチャーマップというのは、
1. コミュニケーション(率直か婉曲か) |
5. 決断(合意指向かトップダウンか) |
2. 評価(ネガティブフィードバックの仕方) |
6. 信頼(タスクベースか関係ベースか) |
3. 説得(原理重視か応用重視か) |
7. 見解の相違(対立受容型か、対立回避型か) |
4. リード(平等主義か階層主義か) |
8. スケジューリング(直線的か柔軟か) |
という8つの指標で、各国が持つ文化的な特性をプロットしたものです。
2.のネガティブフィードバックの仕方、というのは、自分の欠点を誰かに指摘されるなら、どのように言って欲しいと思うか、という指標で、直接的な指摘を「贈り物」だと思う文化は1点、「侮辱」だと思う文化は10点になります。著者のエリン・メイヤー氏による分析では、日本はほぼ10点、中国は8点あたりに位置づけられます。
そんな馬鹿な!と思われますか?そうかなるほど!と思われますか?私自身はしばらく考え込んでしまいましたが、よくよく考え、自身をも振り返ってみて、腹に落ちました。
日本は極めて階層主義が強いにもかかわらず(指標4)、合意指向(指標5)なので、上司の指示には従わなければならない一方、意に沿わない指示をされたことをいつまでも引きずる傾向があります。一方の中国は、階層主義は同様に強いのですが、ビジネスにおける決断はトップダウンだと割り切っていますから、尊敬する上司に「違う!こうしろ!」とはっきり言って貰えれば、あっさりと納得し、それ以上考え込んだりしません。
欧米他、世界との比較では、日本も中国も直接的なネガティブフィードバックが嫌い、という点では極めて近い位置にいながら、中国人の方が日本人よりは、まだしも受け入れる文化があります。にも関わらず、在中の日系企業で、中国人社員へのネガティブフィードバックに苦労されている上司が多いのは、信頼(指標6)が関係しています。ここでは日本はタスクベースが強く、中国は圧倒的に関係ベースです。
お分かりでしょうか?日本人は相互の人間的な信頼関係が薄くても、「この人はデキる人だ」と思えば高く評価し、中国人はいくら仕事が出来る人でも「個人として信頼できる人物だ」と思えない限り評価しません。
よって、上司が部下から「あなた、自分にそんな(不愉快な)ことを言えるような関係じゃないでしょ?」と思われていれば、どのようなフィードバックも受け付けない、ということが起こってしまいます。コーチングの世界ではラポールといいますが、中国語だと「关系」でしょうか。そういえば、中国人は親御さんの言うことをよく聞きますよね。日本人とは対照的だと感じます。
もし日本人上司である皆さんが、中国人部下へのネガティブフィードバックの「方法」に悩まれているなら、それは「方法」の前に「关系」をどう形成するかの問題だったのかもしれません。
今号も最後までお読みいただき、ありがとうございました。