2016年4月に、中国における外債管理方式として「マクロプルーデンス」方式が公布されて以降、企業は、従来の「投注差」方式と「マクロプルーデンス」方式の二つの管理方式を選択できます。
このうち、「マクロプルーデンス」については、2017年1月の改正(銀発[2017]9号)により、外債枠が純資産の2倍まで拡大され、これにより「投注差」を上回る外債枠を確保できるケースも増えて、「マクロプルーデンス」方式は、企業にとって、実務上利便性の高い管理方式となっています。
そして、2020年3月12日、中国人民銀行は「中国人民銀行 国家外貨管理局 全範囲クロスボーダー融資マクロプルーデンス政策因数の調整に関する通知」(銀発[2020]64号、以下「本通知」とする)を公布し、従来の外債枠(純資産の2倍)がさらに拡大され、純資産の2.5倍となりました。
そこで、下記設例により、「マクロプルーデンス」方式による外債枠の計算方法をご説明します。
(設例) A社(金融機関ではない中国国内の日系外資企業)
投資総額:1,000万元、登録資本金:700万元、
2019年度末時点の純資産額:900万元(資本金700万元+未処分利益200万元)
新規で日本親会社から100万元の借入(3年契約、元建て)を実施する場合(従前の借入は0)
管理方式 |
① 外債枠 |
② 外債枠消費額 |
①-② 外債枠残高 |
備考 |
投注差 |
300(※1) |
100 |
200 |
発生額ベースで残高管理 |
マクロプルーデンス |
2,250(※2) |
100(※3) |
2,150 |
返済後、外債枠が復活 |
(※1)投資総額-登録資本金=1,000-700=300
(※2)純資産額×レバレッジ率×マクロプルーデンス政策因数
=900×2×1.25(「本通知」により、マクロプルーデンス政策因数が1→1.25に引き上げ)
=2,250(純資産の2.5倍が外債枠となる)
(※3)クロスボーダー融資残高×①期間リスク転換因数×②類型リスク転換因数+外貨クロスボーダー融資残高×③為替リスク換算因数=100×1×1+0×0.5=100
〔リスク因数表〕
リスク因数 |
区分 |
因数 |
備考 |
①期間リスク転換因数 |
短期(返済期限1年以内) |
1.5 |
短期借入の場合、借入残高×1.5の外債枠を消費 |
中長期(返済期限1年超) |
1 |
||
②類型リスク転換因数 |
オンバランス融資 |
1 |
- |
オフバランス融資 |
1 |
||
③為替リスク転換因数 |
- |
0.5 |
外貨借入の場合、借入残高×0.5の外債枠を別枠で消費 |
「マクロプルーデンス」方式を検討する際の注意事項
1.必ずしも借入金額=外債枠消費額となるとは限らない。上記〔リスク因数表〕の通り、仮に外貨かつ短期で借入を実施する場合、借入金額の実質2倍の外債枠を消費する。
2.外債枠は純資産額を基礎にしているため、年度により外債枠は変動する(例えば、未処分利益は企業の業績により変動するため)。また、累積損失を抱える企業においては、依然として「投注差」方式を採用する方が、より多くの外債枠を確保できるケースも考えられる。なお、銀発[2017]9号では、計算基礎となる純資産額は、直近期の会計監査を経た財務報告を基準とすると規定されている。