中国政府は、労務派遣暫定規定施行規定28条において、企業における労務派遣人員を全体労働者の10%以下にする旨を規定し、これを2016年2月29日までに実現することを要求しています。
しかし、2016年4月時点でも、一部の日系企業(特に製造業)では、労務派遣人員の割合低下が進んでいません。各社どのように労務派遣割合を低下させるか頭を悩ませているようです。労務派遣人員の割合低下を図る方法としては主に以下の2つが挙げられます。
① 派遣労働者の直接雇用化
② 製造請負事業者への委託
①の直接雇用化ですが、企業側には、製造量の変動に応じて労働力を柔軟に調整したいことから、できれば厳しい解雇規制・無期転換規制の及ぶ直接雇用をしたくないというニーズがあります。
そこで、現在、一部の労務派遣会社が、労務派遣の直接雇用化の代わりに労務派遣から②の製造請負への切り替えを提案しております。しかし、以下に述べる通り労務派遣と製造請負は根本的に全く性質の異なるものであり、形式だけ製造請負に切り替えることは将来に禍根を残す可能性があります。
1 労務派遣と請負の違い
労務派遣においては、派遣先は派遣労働者に対し、直接指揮命令を行うことができますが、請負においては、委託会社は受託会社(請負事業者)の労働者に対し、直接
指揮命令を行なってはなりません。
そのため、請負においては受託会社が自ら(1)責任者を現場に常駐させ(2)常駐した受託会社の責任者が直接指揮命令を行う必要があります。ところが、現在の中国の請負では、受託会社が直接指揮命令を行うことは非常に少なく、多くの場合、相変わらずこれまでの派遣と同じく、委託会社が直接指揮命令を行なっています。つまり、実態は偽装請負のケースが多いのです。
2 罰則・リスク
偽装請負の罰則としては、労働契約法92条2項が挙げられます。派遣元企業、派遣先企業が労務派遣の規定に違反した場合、行政部門が期限を定めて是正命令を行い、期間内に是正されないときは、1人につき5千元以上1万元以下の基準の過料を課されます。それ以外にもストライキなどの労働紛争リスクがあります。一部の派遣労働者は、いずれ直接雇用をされるだろうと期待を抱いております。それが、会社が実態は派遣に限りなく近い偽装請負を派遣労働者に提案した場合、派遣労働者は失望しストライキなどの行動に出る可能性があります。
現在、中国政府は偽装請負と労務派遣の運用について条例等で明確には規制しておりませんが、今後偽装請負についての規制が強まると予想できます。請負への切り替えについては慎重に検討されることをお勧め致します。