2009年年末~2010年年初にかけて、立て続けに「省をまたいだ社会保険の移転が可能」となる新しい通知が発布となりました。
2010年1月1日から施行となった[城鎮企業従業員基本養老保険関係移転継続暫定方法]によって、まず「養老保険(年金の保険)」の「省をまたいだ移動」が可能になり、2010年7月1日から施行となる[流動就業人員基本医療保障関係転接接続暫行弁法]では、「医療保険」も「省をまたいだ移動」が可能となります。さらに、「農村戸籍者」も不利にならないような制度も盛り込まれています。しかし、両法とも、まだ細則が定まっておらず、今後どのような対応が必要となるのかが注目です。
・・・とは言っても、我々日本人から見れば「だから、何?」という感想を持ってしまうのが自然なのかもしれません。しかし、この新通知は「中国が変化している」ことを如実に物語っている制度変更とも見ることができます。今回は、新通知発布の背景を簡単にご説明して、「現在の中国に正解はない」ことをご理解いただくきっかけにできればと思います。
まず、先進国・日本と新興国・中国では、「社会保険」の成熟度が異なります。日本であれば、「社会保険」に加入する事によって、医療や老後の年金は「配偶者・家族」が対象となりますが、中国は加入者「本人」のみ。また、日本では日本全国どこに行っても、同様の社会保険があり地域間の移動による影響は限定的と言えますが、広大な国土を持つ中国では、社会保険の加入条件、内容、対象範囲、納付比率などが地域毎に全く異なっています。
この中国における社会保険の地域間格差を本部で一括管理することは、日系企業のみならず中国系企業の人事部門ですら頭を悩ませているという実態はあまり知られていません。
「そんな不合理なことは考えられない」と思われるかもしれません。この不合理さを理解するには、中国独自の「戸籍制度」を知る必要があります。中国の「戸籍」は「都市戸籍」と「農村戸籍」の2種に区分されていました。この「戸籍の違い」は、「国籍の違い」ほどの差異があります。戸籍によって加入できる「社会保険」が異なったり、子女を学校に入学させることも制限されたりしているほどです。この制度が制定された1958年当時は、極端なモノ・サービス供給が不足していた時代です。国民が自由に移動してしまえば食糧を確保する事も難しい時代でした。そこで、国民の移動を制限する必要があったために制定されたと言われています。
つまり、従来の「社会保険」制度が、地方性法規によって大きく異なるのも「国民が移動しない」ことが前提とされていたためとは考えられないでしょうか。
しかし、時代は移り変わり、今や中国は、日本を追い越しGDP世界第2位になろうかというほどの発展を遂げています。従来は各地域毎に自動車会社があり、家電メーカーがあり、といった体制から、1企業が全中国を対象として支店展開、多店舗展開する時代へと移り変わってきています。今回の「社会保険の移転が可能となる制度」「農村戸籍者へも社会保険制度の適用拡大」は、制限されていた「国民の移動」を容認・推進する制度へと大きく変化していることを物語っているのではないでしょうか。
移動の制限から、容認・推進へ。地域独自から統合へ。途上国から先進国へ。現在の中国はその変化(成長)の真っ只中にあります。つまり、今までの「正解」が明日には通用しなくなる時代とも言えます。「どうすれば良いのか?」は、「他から探す」「過去から探す」ではなく「今、自分で決める」ことがより重要になっていると感じるのは、私だけでしょうか。