【2024年11月】清算vs持分譲渡における日中双方で発生する税務コストの解説

 

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近年、中国からの撤退や再編のご相談をよく受けますが、現在の中国では、現地法人の撤退にせよ、第三者に売却(いわゆるM&A)や従業員への売却(MBO)のいずれの手法でも確実に撤退が可能であり、マイツグループがご支援するケースでは残余財産や譲渡代金もスムーズに回収している状況です。

このように撤退が確実に実行可能な状況下、現在、マイツグループでは撤退実務のご支援だけではなく、個別・具体的な撤退方法のアドバイザリーや前段階のブレインストーミングのご相談対応の際に、各種の撤退方式における現地法人/親会社の課税関係のご質問をされる企業も多いです。

従い、本稿では撤退の典型事例とも言える、清算と持分譲渡形式における日中の課税関係について説明します。

1.清算:清算にかかる、日中の課税関係は以下の通りです。

  1. (1)現地法人
  清算過程において、税務抹消時の審査を経て、現地法人が納付すべき税金が確定します。
  税金の追徴が発生した場合、当該納税後に税務登記が抹消され、その時点で現地法人の課税関係は
  終了します。尚、現在は、現地法人の既往の納税対応に特段大きな瑕疵がなければ、
  税務調査(当局担当官による実地調査)自体が実施されないケースも見受けられるなど従前とは
  大きく異なり、短期間で完了するケースも散見します。

 

  1. (2)日本本社
  現地法人の清算手続きの終了に伴い、残余財産の回収が可能な場合には、金額の多寡によって
  以下の通り、①中国(企業所得税)、②日本(法人税)の双方にて課税される可能性があり、
  留意が必要です。
  以下に具体的な数値を上げつつ、説明します。
例1:払込資本金100、未処分利益200(払込資本金額=海外子会社株式(現地法人)の簿価[i])と仮定
  1.  ①中国(企業所得税)
     現地法人の清算手続きの終了に伴い、残余財産の分配時、日本本社が受領する当該所得は、
     企業所得税法[ii]と同実施条例[iii](以下“同法等”と表記)に従い、中国の課税対象取引になります。
     この中国国内源泉所得について、現地法人の未処分利益及び剰余金の累計額を看做し配当所得と
     認識します[iv]
     但し、同法等により看做し配当所得等に対し、非居住者企業には企業所得税率10%が適用[v]され
     (本例では20200×10%が)送金時に源泉課税されます。
  1.  ②日本(法人税)
     上記①に基づき、回収資金300(看做し配当金200)を受領し、日本側の会計処理例は以下の通りです。
<借方>現預金                    280                <貸方> 海外子会社株式                 100
    租税公課(10%源泉課税部分)        20                                          清算益(看做し配当金) 200

日本(法人税)では、当該清算益(看做し配当金)に対し、外国子会社配当益金不算入制度[vi]の適用を受けられれば、95%相当額まで益金不算入となり、上記例では10200×5%)のみが益金となります

尚、同制度の適用を受けた場合、既に95%相当額まで免税扱いの為、日中双方での二重課税は“ほぼ”排除されている為、中国側での源泉納税金額(本例20)に対する外国税額控除の適用までは認められない点は、留意が必要です。

 

 

2.持分譲渡:持分譲渡にかかる、日中の課税関係は以下の通りです。

  1. (1)現地法人
  日本本社の出資持分を売却する際の課税関係であり、現地法人には特段の課税関係は発生しません
  (が、現地法人側では、管轄局や銀行等における出資者変更の関連手続きを要します)。
  但し、持分譲渡に先立ち、例えば現地法人が親子ローン等の借入金や買掛金の債務免除を受け債務再編所得が
  生じる等、現地法人側でも同再編取引に関連して、納税義務の発生する可能性があります[vii]

 

  1. (2)日本本社
  中国ではゼロ円(ゼロ元)譲渡は認められないものの、備忘価格(Ex.1元)での譲渡もあり得ます。
  一方、土地使用権の含み益や優良な顧客資産を有するケース等では、譲渡益が生じるケースもあります。
  後者では清算時と同様に、金額の多寡により、①中国の企業所得税と、②日本の法人税の両方が課税される
  可能性がある点に、留意が必要です。
例2:譲渡価格300(払込資本金100、持分譲渡所得(譲渡益)200)、他の条件は上記設定と同様と仮定
  1.  ①中国(企業所得税)
     清算時と同様に、譲渡益も中国国内源泉所得であり、日本本社には以下の計算式により譲渡益
     生じれば、同じく企業所得税率10%(本例では20200×10%)を納税します
 譲渡益=持分譲渡価格―持分譲渡原価(払込資本金/当該持分購入時に支払った持分譲渡金額)
     また、持分譲渡価格、持分譲渡原価共に、納税時の為替レートを適用して税額を算出します[viii]
  1.  ②日本(法人税)
     上記①に基づき、回収資金300(譲渡益200)を受領し、日本側の会計処理例は以下の通りです。
<借方>現預金                    280                <貸方> 海外子会社株式                 100
    租税公課(10%源泉課税部分)        20                                          譲渡益         200
     日本(法人税)に対しては、譲渡益200が課税所得に算入されます(従い、法人税率を30%と
     仮定すると税額60200×30%)が、中国納税額分(本例20)は、原則、外国税額控除の対象
     となり、実質的な税負担は4060-20となります[ix]

 

3.留意事項

繰り返しになりますが、現在の中国では清算は確実に可能であり、もし現地法人に残余財産があれば確実に海外送金による回収も可能との現状を強調したいと思います。また持分譲渡では、第三者に売却する(所謂M&Aの)場合、特に土地使用権や規模等により、如何に有力な買い手候補を(できれば複数)見つけ出し、交渉を成立させるかが、投下資本回収の最大化と迅速な撤退手続きの完了に、肝要となります。マイツグループでは近年、買い手企業の探索や交渉も含めたM&A業務にも注力し、幅広に対応しています[x]

 

※本資料の著作権は弊社に属し、その目的を問わず無断引用または複製を禁じます。

 


 


[i] 看做し配当所得に加え、海外子会社株式の簿価(税務上の投資簿価)≠払込資本金額(Ex.海外子会社株式を時価にて譲渡取得)の場合、“株式譲渡損益”を認識する。

[ii] 同法の原文URL:中华人民共和国企业所得税法(主席令第六十三号)_中华人民共和国中央人民政府门户网站

[iii] 同実施条例の原文URL:授权发布:中华人民共和国企业所得税法实施条例

[iv] 尚、残余財産から配当所得控除後の残額が投下資本(外貨建て出資額×清算時の為替レート)を上回る/下回る場合、譲渡所得/損失を認識する(譲渡所得に対して源泉税率10%を適用する)。詳細は財税[2009]60号を参照のこと。

[v] 同実施条例(第91 条)等。尚、配当、利子、使用料を中国現地法人から受領時の源泉企業所得税率10%は日中租税条約とも同率であり、理論上は“日中租税条約の恩典享受“と考えれば中国税務当局に申告が必要とも思われるが、現時点の実務運用上、同申告の要求は特段ない、との認識。

詳細はJPマイツ通信2019年12月号を参照のこと。URL:ニューズレター アーカイブ| 株式会社マイツ

[vi] 同制度の詳細は、国税庁HPの右記URL等を参照のこと。URL:第1 法人税基本通達関係|国税庁

[vii] 但し欠損金との相殺が可能であり、繰越期間は最長で5年となっている(企業所得税法(第18条))。

URL:中华人民共和国企业所得税法(主席令第六十三号)_中华人民共和国中央人民政府门户网站

一方、日本側の債務再編損失の損金処理の可否は個別・具体的に税理士等に慎重にご確認願う。FYI:第1款 寄附金の範囲等|国税庁

[viii] 例えば(買収者が中国企業など)源泉徴収義務者が源泉徴収する場合、徴収義務発生日のTTMを適用。国家税務総局公告2017年37号を参照のこと。URL:税务总局关于非居民企业所得税源泉扣缴有关问题的公告_部门政务_中国政府网

[ix] 但し中国税務当局の認定時価による課税では、持分譲渡価格の超過部分への外国税額控除は適用不可と思われる点や、譲渡損での損金処理の可否(寄附金課税の有無)は個別・具体的な検討の必要あり。税理士等の専門家に慎重にご相談いただきたい。FYI:合理的な整理計画又は再建計画とは|国税庁

[x] URL:M&A 中国 | 最新動向と成功事例から学ぶ海外企業の買収戦略とマイツの日中クロスボーダーM&A