【2022年11月】定年退職時のトラブルを回避するための注意点

 

 

 

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日本企業が中国に投資し、現地法人を設立し始めてから、約30年経ち、会社に50代の従業員がすこしずつ増えてきています。日本本社と異なり、中国現地法人では、「定年退職規程」や「定年再雇用規程」など、従業員の定年に関する規程が完備されていないので、定年退職に巡るトラブルが、日系企業で増え続けています。

本来、中国の労働関連法律では、従業員の定年退職について、明確な規定があるため、比較的にトラブルが発生しにくいです。ただし、経済補償金や社会保険等、定年退職を機に、労働契約の終了に伴うその他の法的条件を求める従業員が出てきます。以下、現時点でよく見られる定年退職に巡る問題やトラブルを紹介させていただきます。

 

  • 定年退職する際、会社から退職金を支払う必要があるか。

従業員が定年退職を理由で、会社との労働契約を終了する際、経済補償金を支払う義務がない。一部従業員は定年退職時に何も補償をもらえないので、在職中に長期病気休暇の取得や、業務怠慢で、会社に解雇された方が有利だと考え、定年数年前からさぼり始める。

このような従業員を防ぐためには、懲戒規程を整備すると同時に、業績給与の導入や社内コミュニケーションの強化等が考えられる。

  • 女性従業員の定年年齢は50歳か、55歳か

法律では、「女性従業員の定年年齢は50歳とし、女性幹部の定年年齢は55歳」と定めている。女性従業員が幹部に属するかどうか、見解が分かれることがよくある。上海の判例では、女性従業員は国家幹部に該当しない限り、会社の判断を尊重することが多い。ただし、業務記述書で、技術業務や管理業務がメインの場合、「女性幹部」と認定する判例もある。

最近の法改正では、法定定年年齢の統一が検討されていて、50歳か55歳の差がいずれ歴史になる。現在、会社は各ポジションが管理職か、一般職か、事前に規程に定め、開示することが望ましい。ただし、管理職であっても、早めに退職してほしいケースも考えられる。その場合、定年年齢になる2年前に、顧問ポジションに転籍する手法がよく利用される。

  • 養老保険を受領できなくても、定年年齢になったら定年退職できるか

定年後に養老保険を受領するため、累積15年間社会保険を納付しなければならない。社会保険納付年数が15年未満の場合、定年年齢になっても、養老保険を受領できないため、一部従業員がその理由で労働契約の終了が違法と主張してくる。

明確な法規定が欠如するため、判例も統一されていない。有力説としては、「中華人民共和国労働合同法実施条例」第21条「労働者は法定定年年齢に達したとき、労働契約が終了する。」と定め、養老保険の受領を

定年退職の必要条件とさして定められていないと抗弁している。判例もこの意見を支持しているケースが多い。

以上のように、定年退職を巡るトラブルは、極めて一部特殊な従業員が、離職時の経済補償金や社会保険などを狙い目に起こすことが多い。管理規程を合法に整備すると同時に、会社に協力的でない従業員を早期発見、対処することが考えられる。