【2019年7月】有給休暇の繰越について

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有給休暇の繰越についてはご存知の方が多いと思いますが、日系企業の就業規則を読んでみると「有給休暇の繰越は認めず、買い取りも行わない」という旨の規定が意外と多いことが分かります(おそらく有給休暇は全て使い切ることを目的としているため)。そこで、実際にあった労働仲裁の事例を元に有給休暇の取り扱いについて、説明致します。

1.事例

Xさんは2013年8月1日、Yホテルに入社しました。仕事は調理師で2年間の雇用契約を締結しました。

2015年7月31日、雇用契約の期間満了とともにYホテルはXさんに契約を更新しないことを通知するとともに平均月給2ヶ月分の経済補償金を提示しました。

Xさんは「自分は昨年付与された有給休暇を一部使用していない。昨年の使用していない有給休暇を3倍の価格で買い取ってほしい」と要求しましたが、Yホテルは、「「有給休暇の翌年への繰越は認めず、翌年になれば有給休暇は失効し、有給休暇の買い取りも行わない」旨の就業規則の規定があるため、買い取ることはしない」と拒否しました。

XさんはYホテルの回答に納得できず労働仲裁を申し立てました。

労働仲裁では、「Xさんは、他社での勤務経験があり連続勤続年数が1年を超えていたため、Yホテルに入社時から有給休暇が法律で付与されていた。Yホテルは、Xさんが有給休暇を使用できるように調整をしていなかったのであるから、Yホテルは昨年からの未使用の有給休暇を買い取るべきであり、有給休暇の残日数に応じて一日分平均賃金の二倍の金額を支払え」と判断しました。

2.有給休暇の繰越・買い取りについて

(1)有給休暇の繰越・買い取りを認めない規定

「企業従業員有給年次休暇実施弁法」(実施弁法)第5条では、有給休暇の繰越は可能ではあるが有給休暇の繰越を行わない場合は会社に有給休暇の買い取り義務があると規定されております。そのため会社が一律に「有給休暇の繰越は認めず、買い取りも行わない」と規定することは法律違反となり無効となります。

転職経験のある従業員はこの辺りを詳しく知っておりますので、このような規定で運用している場合、上記の事例に様に退職時に揉める可能性があります。

(2)経済補償金の発生もありうる

労働契約法3814号、461号により「使用者の規則制度が法律、法規の規定に違反し、労働者の権益に損害を与えた場合」は経済補償金を支払わなければなりません。「有給休暇の繰越を認めず買い取りも行わない」旨の就業規則の規定がある場合は、「使用者の規則制度が法律、法規の規定に違反し、労働者の権益に損害を与えた場合」に該当し、自発的に退職しても経済補償金が発生する可能性がありますので注意が必要です。

(3)買い取り金額は二倍

実施弁法第10条の規定に基づき、300%(三倍)の年次休暇の賃金報酬には既に従業員の通常の勤務期間の賃金報酬が含まれているため、実際は有給休暇の残日数に応じて一日分平均賃金の二倍の金額を支払うことになります。

(4)買い取りを避ける方法

 

実施弁法第10条の規定に基づき、従業員が自身の原因により、有給休暇を取得しなかった場合、雇用主は有給休暇を買い取らなくとも構いません。但し、会社が従業員に有給休暇を手配したにもかかわらず、従業員本人の原因により有給休暇を取得しない旨の書類を提出してもらう必要があります。この書類を出してもらうことは実務上非常に難しく(「私は忙しくて取れなかっただけだ」等の反論を受けることがあります)、従業員との人間関係を損なう可能性がありますので、やはり有給休暇は計画的に消化してもらう必要があります。