【2018年10月】病気休暇中の海外旅行(アリババ事件)続編

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以前、マイツ人事労務通信(2018年1月号)で紹介した「病気休暇中の海外旅行(アリババ事件)」について進展がありましたので、事例の表記に重複がありますが、改めてご紹介致します。

 

1 疑わしい病気休暇

「病気休暇中なのにコンサートに行った写真が微信にアップされている。このような社員を解雇できないか?」「病気休暇中なのにいちご狩りに行ったことを微信で発表している。このような社員を解雇できないか?」

これらはいずれも私がお客様から実際に受けた相談内容です。

中国では病気休暇中の従業員は非常に保護されており、多くの裁判例で虚偽の病気休暇申請を理由とした解雇が無効となっております。

 

2 アリババ事件

丁さんは2013年1月28日アリババと雇用契約を結びました。契約期間は3年、賃金は月額3万6000元でした。

2013年4月19日、丁さんはアリババに診断書等を提出して病気休暇の申請を行いました。診断書の内容は「頚椎病、2週間の休暇が必要」というものでした。アリババは丁さんの病気休暇取得を許可しました。

丁さんは2013年4月19日にブラジルに行き、同年5月4日に帰国しました。

アリババは2013年5月16日、丁さんに対して、解雇を通知しました。理由は「病気休暇申請日にブラジルに旅行に行き、嘘の情報で会社を騙した。このような行為は会社規則の重大な違反行為に該当するため」との内容でした。

丁さんが、労働仲裁を申し立てた所、労働仲裁はアリババの解雇を無効と判断し、丁さんがアリババで働き続けることを認めました。アリババはこれを不服として北京市区人民に提訴した所、区人民法院もアリババの解雇は無効と判断しました。

二審の人民法院は「アリババは丁氏の病気休暇は虚偽であると述べているが、客観的な証拠も無く、アリババの主観的な判断に過ぎない。診断書は真正なものであり、アリババはこれを覆す証拠を提出しておらず、解雇は無効である」と判断しました。その後の中級人民法院も同じ判断をしました。

アリババはそれでも諦めませんでした。再審を申請した所、何と再審で逆転勝訴したのです。

丁さんはブラジルから帰国後、アリババの人事からの「どこで何をしていたのか」との問い合わせに対し「病気休暇の際、どこで休むかという決まりは就業規則に書いていない。どこで休んだかについて答える義務はない」と回答を拒否していました。

再審は、「確かにアリババの就業規則では病気休暇時の滞在場所を指定していないが、労働者の休暇期間の行動とその休暇事由は符合していなければならない。一般常識からすれば、従業員は会社に病気休暇中の行動について真実の情報提供を拒絶したと考えられる。このような行為は信義誠実の原則と企業規則制度に反するのみならず、企業秩序及び経営管理に劣悪な影響を与える。それ故、アリババが企業規則制度に重大な違反をしたとして解雇をおこなった行為は適法有効である」と認めました。

 

3 日系企業としての対策

この再審結果は非常に意義があります。これまでこの種の裁判例では企業側が連戦連敗でした。敗訴理由も「偽病気であるとの証明が足りない」等、けんもほろろの内容だったのです。

また、今回の再審には中国政府が関与している可能性もあります(元々、中国の司法権は日本と異なり憲法上も独立していません。政府の管理下にあります)。中国全土に蔓延する虚偽病気休暇についてそろそろ歯止めを掛けなければいけないと思ったのかもしれません。

病気休暇中の行動について会社が従業員に質問をし、病気休暇の内容と行動が一致しない・虚偽の回答をする場合は、一発で即時解雇ができる可能性が出てきました。