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中国の社会保険制度は、2011年7月1日付け「社会保険法[i]」及び2011年10月15日付け「中国国内で就業する外国人の社会保険参加暫定弁法[ii]」等の施行により、原則、外国籍人員に対する中国社会保険の強制加入が求められています。大部分の地域では強制加入ですが、実務的には、これまで上海など一部の地域では任意適用とされていました。
しかし、上海での実務運用が大きく変更された可能性が高く、特に上海現地法人に駐在員を派遣する企業には極めて影響の大きい状況となっており、本稿では現状と対応方法を説明します[iii]。
1. 上海市における政策背景
中国の殆どの地域において、中央規定且つ最上位法である主席令の「社会保険法」及びその補充規定を根拠とし、外国籍人員に対し社会保険の強制加入を求める現況とは対照的に、これまで上海地域では外国籍人員には任意適用の運用が採られていました。根拠として、滬人社養発「2009」38[iv]号等が挙げられます。同38号では外国籍等の人員は医療保険、養老保険、労災保険に加入“できる”等とされ、強制加入を求める表現が無く、また滬人社法「2016」301号[v]により、2021年8月15日まで同38号が期限延長されていました。
しかし、少なくとも本稿執筆時点では8月15日の期限を経過したにもかかわらず、同38号は延長されておらず、従い、上海市においても外国籍人員に対し、社会保険の強制適用を求める状況になったと考えられ、弊グループの現地当局へのヒヤリングにおいても、“(外国籍人員の)加入が必要”との回答を得ており、実務的には現地法人各社も納付を前提とした手続きに入られていると理解しています。
2. 上海市の社会保険制度(社会保険料率・納付基数)及び日中社会保障協定適用のメリット
上海市の社会保険料率と納付基数は以下の通りです。
(1) 社会保険料率
上海の社会保険料率は右表の通りです。
このうち、後述の日中社会保障協定の適用を受ければ、養老保険は適用免除となります。養老保険は、社会保険全体(所謂“5険”)のうち、企業負担・個人負担の合計で6割超を占めています。
(2) 納付基数
上海市の社会保険の納付基数は前年支払い実績に基づきます。2021年7月1日以降の同基数は、前年の平均賃金124,056元(10,338元/月)の60%~300%以内が下限・上限であり、駐在員の多くは上限300%=31,014元/月となります。
従い、個人負担分も含めた合算金額で計算すれば、養老保険の年間保険料は以下の通り、一人当たり、約150万円相当の社会保険料が減額される為、適用免除を享受するメリットは大きいと言えます。
3. 日本本社として採るべき対応
上述の通り、今後、関連規定等の公布により、遡及的に任意適用が継続される可能性が完全には排除できないものの、その可能性は極めて低いと考えられます。従い、日本本社としては、上海現地法人に駐在員を派遣している場合、2019年9月より発効済の日中社会保障協定を享受すべきと考えます。もし養老保険の適用免除の手続きが未済であれば、所轄の年金事務所/事務センターにて、早急に「中華人民共和国で就労する被用者のための日本国公的年金の適用に関する証明書(以下“適用証明書”と表記)」の取得手続きが求められます[vi]。
【適用証明書の取得フロー】
4. 留意事項
本稿執筆時点では確定情報が無い為、社会保険の加入を前提に、納付基数や納付開始時期などを確認する必要が生じており、例えば8月15日より以前に遡及して納付が求められる可能性も完全には排除できません。
また、既に社会保険の納付を前提として対応中の現地法人が散見される一方で、上海市の実務運用をもう少し見極めたいと判断される企業もあり得ると考えます。但し、後者の場合には、将来的に保険料の遡及納付に加えて罰金や延滞金が生じる可能性を含め、慎重にリスクを検討する必要があります。
いずれの選択肢にせよ今後の関連規定の公布の有無とその内容を慎重に確認し、迅速な対応が求められます。
※上海通信2021年8月増刊号(上海市における外国籍者の社会保険加入)を、併せてご参照ください。[vii]
[i] 社会保険法の原文URLは下記の通り。URL:http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/201901/4a6c13e9f73541ffb2c1b5ee615174f5.shtml
[ii] 中国国内で就業する外国人の社会保険参加暫定弁法の原文URLは下記の通り。
URL;http://www.mohrss.gov.cn/SYrlzyhshbzb/zcfg/flfg/gz/201601/t20160112_231574.html
[iii] 当初、駐在員及び日本本社にとり、税務上、多大なインパクトが生じ得る重要規定・最新動向を2回に亘り掲載予定だったが、同2回目は来月に掲載予定。
[iv] 滬人社養発「2009」38号の原文URLは右記の通り。URL:http://rsj.sh.gov.cn/tylbx_17283/20200617/t0035_1389709.html
[v] 滬人社法「2016」301号の原文URLは右記の通り。URL:http://rsj.sh.gov.cn/tqt_17339_17339/20200617/t0035_1389099.html
[vi] 日中社会保障協定の原文及び概要説明は、外務省HPの下記URLの通り。
URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page22_003095.html
日中社会保障協定の加入免除手続き書類(適用証明書の交付申請書)は、日本年金機構の下記URLの通り。
URL:https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shikumi/shinseisho/china/china.html
[vii] 「上海通信」を含むマイツグループのニュースレターURLは右記の通り。URL: https://myts.co.jpcategory/newsletter/
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