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2021年12月24日に会社法(改正草案)が公開され[i]、翌年1月22日まで、そのパブリックコメントが募集されました。前回の会社法(2018年)改正時[ii]とは異なり、大幅な改正が見込まれる上、株主や現地法人ガバナンスに対する厳罰化など現地法人や日本本社に多大な影響を及ぼし得る条項も多く見受けられます。
この為、本改正法の公布時期は未定ながら、本稿では多岐に亘る草案内容のうち、外商投資に関わる重要項目の一部について、株主やガバナンス等への影響を中心に説明します。
1. 草案の枠組み・概要
草案は、現行の全13章・218条から2章(“第2章 会社登記”及び“第6章 国家が出資する会社の特別規定”)が新設され、全15章・260条から構成されています。
また、外商投資を主体に考えた場合、①実務的に進んでいる許認可・手続きやプロセスの効率化・簡素化を会社法に反映した項目、②機関設計の整備、③株主とガバナンス(董事、監事、高級管理局)の責任と罰則の強化、④授権資本制における問題点への罰則強化など多岐に亘り、会社法の章ごとを主体に説明します。
(1) 会社の設立、変更登記、抹消の登記事項及び手順の明確化
まず上述の通り、“第2章 会社登記”(全15条)が新設され、以下等の項目が規定されています。
Ø 設立登記、変更登記、抹消登記の各事項及びプロセスの明確化、及び簡素化の進展 Ø 登記プロセスの最適化、登記の効率及び利便性の向上 Ø 電子営業許可証や、統一的な企業情報公示システムを通じて公告を行い、電子通信方式による決議での法的効力の採用 |
→また、法定代表者は職務執行による他人に損害を与えた場合、会社が民事責任を負うものの、会社は法律や定款の規定に基づき、過失のあった法定代表者への賠償請求も可能(第11条)など、法定代表者の責任が増しており、注意が必要です。
(2) 清算制度の整備と簡素化
“第12章 会社の解散と清算”として、以下等の項目が規定されています。
Ø 会社清算制度の整備と簡素化 Ex.(全株主が債務履行について承諾後)簡易手順を通じた登記抹消を可能に Ø “清算義務者”及び清算組の構成員の義務と責任の強化 |
→撤退制度の簡素化では、企業情報公示システムの活用や要件に該当すれば簡易抹消手続きが可能など実務的に導入されていますが、会社法上での明示により今後一層の規範化・簡素化が期待されます。
→一方、定款で別途の定めが無い等であれば董事が会社の清算義務人として解散事由の発生から15日以内に清算組を組成して清算しなければならない等や、清算義務人や清算組メンバーが清算の履行に懈怠し会社等に損害を与えれば賠償責任を負う(第228条、第234条)旨も定められており、要注意です。
(3) 機関設計における董事会の役割の明確化及び従業員代表の参加
“第3章 有限責任会社の設立と組織機構―第2節 組織機構”では、董事会が会社の執行機構である旨(第62条)の明記に加えて、以下等も規定されています。
Ø 定款に基づき、董事会内に董事により構成される監査委員会が設置可能であり、この場合、監事会/監事は設置しなくても可 Ø 従業員300名以上の有限責任公司は、董事会メンバーに従業員代表を含むことが必須 |
→現状、国有企業等に対しては董事会に従業員代表の参加が求められる条項[iii]がありますが、本草案では国有資本の有無を問わず、一定規模以上の企業に参加が要求されるとの建付けであり、注意を要します。
(4) 株主とガバナンス(董事、監事、高級管理職)の責任と罰則の強化
“第8章 会社の董事、監事、高級管理職の資格と義務”として、ガバナンスの忠実義務、勤勉義務(第180条)の明確化と罰則強化などが明記されています。
Ø 董事、監事、高級管理職は法律、行政法規と定款を遵守し、会社に対し忠実義務を負い、職権を利用して不当利益を詐取してはならない Ø 董事、監事、高級管理職は会社に対して勤勉義務を負い、職務の執行は会社の最大利益の為に管理者が通常持ち得べき合理的注意を払い進めなければならない |
→董事や高級管理職が職務執行に際し、故意または重大過失により他者に損害を与えた場合には、会社と共に連帯責任を負う(第190条)等が定められています[iv]。また、第3章でも資本充実の観点から、董事、監事、高級管理職が、株主が資本金を期限までに払込まない/引出す等の行為を知りつつ且つ会社に損害が生じた場合等では賠償責任を負う(第47条、第52条)とも規定しています。
2. 留意事項
草案内容は多岐に亘る為、本稿では株主やガバナンス等への影響を中心に変更事項を抜粋しています。この為、他の追加条項にも留意が必要です。例えば、 “関連取引に対する規範化、関連者の範囲の拡大”(第183条ほか)の条項が挙げられます。また国家資本に関する独立章(第6章 国家が出資する会社の特別規定)では、国家(共産党)による国有企業への積極的関与(指導)の姿勢が窺われ、国有企業との合弁事業ではその影響も考え得ます。
更に、“簡易減資制度”が追加され、欠損金を補填後もまだ欠損がある場合でも”簡易減資を行うことができるが、株主に(利益)分配してはならない”等(第221条)の条項があり、留意が必要です。すなわち、弊グループの中国拠点にて、出資者への払戻しを伴う“有償減資”が、欠損状態の現地法人でも実施された事例を認識していますが、この“簡易減資制度”では払戻しを認めておらず、今後の実務への影響も含めて、留意が必要です。
現時点では、あくまでも草案段階に過ぎません。しかし、本草案を踏襲した改正法の施行となれば、現地法人運営に大きな影響が生じ得る為、今後の審議動向を注視し、また関連情報の収集が望ましいと言えるでしょう。
[i] パブリックコメントを求める草案(原文)は右記URLから検索可能。URL:http://zqyj.chinalaw.gov.cn/index
(但し、現時点では本草案は検索できない為、もし本草案(原文)の閲覧を希望される方は適宜、お問い合わせください。)
[ii] 2018年の改正内容は右記URLの通り。URL:http://www.gov.cn/xinwen/2018-10/27/content_5334901.htm
[iii] 要件の詳細等は、現行会社法第44条を参照のこと。
[iv] また、現行会社法(第149条)では、“董事、監事、高級管理職が会社の職務執行時、法律や定款等に違反し、会社に損害を与えた場合には賠償責任を負う”とあるが、草案(第187条)ではその範囲が拡大している。
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