PDF版はこちら →上海通信 2025年3月号
OECDで策定された居住国以外の金融口座情報を各国・地域で共有する枠組みである「非居住者に係る金融口座情報自動的交換のための報告制度(AEOI制度:Automatic Exchange of Information)」は、税務当局間合意と共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)から構成され、一般的に「CRS」と呼ばれています。
日本から派遣された駐在員が中国の銀行で個人口座を開設する際、納税者番号の提出を求められますが、これはCRSに関わる要求となり、また、日中の税務対応においてもCRSに関連すると思われる事例や報道が散見されるようになっています。
【CRSの主要内容(日本)】 |
・報告対象国(2025年報告分・合計108か国・地域)
中国、韓国、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、英国、ドイツ、カナダ、メキシコ等
・対象口座情報
非居住者の氏名、住所、納税者番号、年間受取総額(利子、配当、有価証券譲渡収入、その他収入)、口座残高等
※2017年1月1日以後開設分については非居住者の全口座が対象
・対象期間および報告先
金融機関は毎年の年末時点データを日本国税庁に提出。国税庁から報告対象国の税務当局に共有
※国税庁「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度 FAQ(2016年7月作成、2024年4月最終改訂)」参照
|
【CRSに関連すると思われる税務ケース】
日本:過去に中国に駐在していた家族が亡くなり、相続税申告を行ったが、日本税務当局から中国にある銀行の個人口座残高が相続財産に含まれていない旨の指摘を受け、修正申告を行った。
中国:主要都市の一部富裕層に対し、国外での投資収益について、自主申告もしくは修正申告を行うよう中国税務当局から指導が行われた(ブルームバーグ2024年10月15日)。
日本からは毎年数十万件のデータが報告対象国に共有されており、また、中国においても「非居住者に係る金融口座情報デューデリジェンス管理弁法(国家税務総局、財政部、人民銀行、銀監会、証監会、保監会 2017年第14号公告)」により、2018年からデータ共有が毎年実施されています。
【国外所得の中国での税務申告時期】 |
・外国籍者
中国滞在日数183日以上(かつ連続30日超の出国がない)年が連続6年(2019年起算)の方は、2025年度から国外所得に対する中国での課税(全世界所得課税)が開始となり、2026年3月-6月末実施の個人所得税確定申告で国外所得を申告
・中国籍者
毎年3月-6月末までに実施される個人所得税確定申告で国外所得を申告
※中国籍の方については、税務上の居住者判定を国外永住権等により判断する事例もあり、所轄税務局での詳細確認が必要
|
2024年度分に対する確定申告は間もなく開始となりますが、中国国外所得については、会社と個人の税金負担方法の確認等を含め、より慎重な対応が必要となります。