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ご存知の方が多いかもしれませんが、北京の国家税務総局国際税務司は2020年9月30日に「コロナ期間の租税回避防止に関する問題の回答」を発表しました。一方、経済協力開発機構OECDは2020年12月にコロナのパンデミックの移転価格への影響に関するガイダンスを公表しました。以下にOECDガイダンスを踏まえて中国税務当局の見解を解説させていただきます。
1. 移転価格調査におけるコロナ影響の取扱
国家税務総局のコメント:コロナによる影響は具体的な業種によって、大きな差異があります。大きな打撃を受けた業種がある一方、新たな発展の機会を得た業種があります。税務機関は移転価格調査を行うにあたり、独立企業原則に則り、コロナが企業の関連取引に及ぼした影響の度合いを考慮し、具体的な状況を具体的に分析する。
解説:①コロナの影響は業種によって大きな違いがあり、必ずしも、マイナスに働いたとは限らないことを示唆しています。②従って、コロナ影響を一律に認めるものではなく、ケースバイケースというスタンスを示していますが、具体的な例示がされているOECDガイダンスに比べて、より抽象的な見解になっています。③損失が本当にコロナに起因するものか、厳しく問う中国税務当局の姿勢が伺えます。
2. 移転価格調査におけるコロナによる損失の取扱
国家税務総局のコメント:税務機関は移転価格調査において、企業の機能リスク、関連取引及び産業界の特徴、比較対象企業の状況を踏まえて、コロナによる影響を総合的に勘案します。コロナ対策に必要な追加支出又コロナにより増加された経営費用について、税務機関は比較分析を行うにあたり、独立第三者における当該コスト、費用の負担状況を十分に考慮した上、差異調整の実施を検討します。当該コスト、費用を明確に区分、数値化し、且つ関係伝票書類を用意するようお勧めします。
解説:コロナの影響による損失について、厳しい姿勢を示していますが、すべての損失を認めないわけではありません。以下の2種類の費用について、条件をつけながら、容認の姿勢を見せています。①コロナ対策に必要な追加支出。例えば、従業員へのマスク、消毒用品、温度計等の資材費用、及び従業員残業代の直接支出が考えられます。②コロナの影響による経営費用の増加分。例えば、工場稼働停止期間中の固定費用、店舗閉鎖撤退費用、納期オーバーによる賠償金等コロナに起因する間接費用が考えられます。容認する条件としては、関連費用を区分、数値化し、伝票書類を用意し、独立第三者の負担額と比べた上で、認められる可能性があります。上記以外の費用、損失については、必ずしも認められると限らないことに留意する必要があります。
3. コロナによる政府支援策の取扱
国家税務総局のコメント:政府支援策による移転価格への影響に関して、主に比較分析に表れるでしょう。政府支援策が移転価格に影響を与えたと企業が考える場合、移転価格文書において、関連情報を提供し、移転価格分析をサポートすべきです。税務機関は独立企業原則に則り、比較要素を識別し、比較分析の公正さと整合性を確保するようにします。
解説:コロナと言えども、例年より高利益を上げている現地法人もあります。その要因の一つとして挙げられるのは、政府による支援策です。具体的には、社会保険料の減免、家賃補助金、電力代の引下げ等がありますが、政府支援策によって、当年度の利益を大きく押し上げ、支援策がなくなる来年に利益が大きく落ち込む可能性があります。ローカルファイルを作成するにあたって、支援策による影響額を区分し、利益の変動要因をきちんと説明できるようにする必要があると思われます。
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