【2020年7月】中国現地法人の不正に対する心構え

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上海マイツ(浦西JapanDesk)では、日常業務を通じ、日系中国現地法人(以下、「中国現法」とする。)の経営者あるいは日本親会社担当部門より、不正に関する調査や不正を未然に防止する会社管理の在り方について多くの相談を頂いています。特に、直近3年間(本号作成時点)の日本上場企業の不正に関する適時開示(IR発表)を調査すると、累計180件を超える発表がなされており、中国現法を含む日本上場企業グループの経営環境においても不正に注視する傾向は今後も継続する事が想定されます。

そこで、本号では中国現法の不正に対する心構えについて、事例調査に基づく一考察をご紹介します。

今回確認した事例のうち、中国現法において不正が発見された事例では、以下の特徴が見られました。

1.不正の類型

Ø 不正は一般に下記の3つに分類されるが、中国現法で発生する不正には特定の傾向はなく、その全ての不正が、いずれかの事例で見られた
 ① 汚職                  (例:不正なキックバック等による贈収賄、違法な謝礼)
 ② 資産の不正流用  (例:経費精算等を悪用した不正支出、現金預金の流用)
 ③ 財務諸表不正     (例:計上時期の操作、負債・費用の隠ぺい・水増し、不適切な情報開示)

2.不正発覚の経緯(※事例より一部抜粋)

事例

不正の内容

発覚の経緯

A

経理担当者の業務上の横領

・日本親会社による内部監査

B

親族が経営する会社との取引を通じた不正支出

・日本親会社による社内調査

C

多額の資金の不正引出し

D

標準原価の操作、事業部間の利益調整、収益認識の前倒し、費用の取消処理等による不適切な会計処理

E

税務調査リーダーへの違法な謝礼

・税務調査の過程で問題を認知

F

取引先から中国現法元幹部社員に対する金銭の交付、中国現法の不正なリベート供与・交際費支出

・日本親会社が中国現法の取引先から告発状を受領

G

架空販売、在庫数量の不適正報告及び評価損未計上

・会計監査人からの指摘

H

買掛金の過少計上、棚卸資産の過大評価等の不適切な会計処理

・日本親会社への内部通報

I

架空取引を利用した経営幹部個人口座への不正入金

架空従業員への賞与等の不正支払

架空の費用計上による不正支出 

3.不正の発生原因(※主な共通事項)

Ø 中国現法の内部統制構築が十分でなく、不正を発生させる機会を与えている

Ø ローカル化が進んだ中国現法ほど、管理部門の役割・権限の明確化を通じた監視・牽制機能の強化が十分に図られていない

Ø 教育・研修を通じたコンプライアンス意識の醸成が万全でない(日本親会社・中国現法に共通)

Ø 日本親会社のモニタリング(日常管理、内部監査等)が十分に機能していない

上記事例を参考にすると、中国現法の不正に対する心構えとして、以下に備える事が非常に重要です。

1.不正対策の第一歩は不正の内容に精通すること

Ø 中国現法で発生する不正には特定の傾向はなく、各社状況に応じて様々な不正が起こり得る事から、想定される不正について、事例等を活用してその内容に精通することが有益です。

Ø 特に上記事例各社は不正の調査報告書をIR情報等で開示していますので、当該調査報告書を参照するなど、不正の内容を研究しておく事を推奨します。

Ø 一般に、不正の調査報告書には、①不正の内容、②不正発覚の経緯、③不正の発生原因やその背景事情、④調査委員会からの再発防止施策の提言、等が記載されていますが、調査報告書は数十ページになる事が多く、内容確認には相当程度の時間を要します。そこで、効率的に内容確認するために専門家の知見を活用する事を推奨します。 

2.不正対策には日本親会社との連携が不可欠であること

Ø 中国現法で起きた不正は、日本親会社からの内部監査や社内調査、内部通報、取引先からの告発、あるいは会計監査人からの指摘など、幅広い手段を通じて発覚しており、特に日本上場企業グループ(中国現法を含む)で不正が発覚した場合、日本親会社は不正に関する適時開示(IR発表)を求められます。

Ø 日本親会社が不正に関する適時開示を行う事は、連結財務諸表への影響だけでなく、社会的にも大きな影響を与える可能性があるため、親会社にとっても切実な問題になります。

Ø 中国現法の不正対策は、日本親会社にとっても経営上の重要事項になりますので、日本親会社の関連部門と緊密に連携する事が不可欠です。

3.不正の発生原因の観点から中国現法の管理状況を再確認すること

Ø 不正の発生を未然に防止するには、中国現法の内部統制構築が十分でなければなりません。しかし、上記の様に、中国現法で不正が発生する事例では、内部統制において改善すべき事項、あるいは内部統制の限界が存在します。そこで、不正の発生原因を研究するとともに、中国現法に当てはまる事象があるか否かを管理状況の再確認を通じて把握し、対策を行う必要があります。

Ø 特にローカル化が進んでいる場合、特定の幹部に権限が集中しているか、管理部門の役割・権限が明確になっているか、監視・牽制機能が十分であるか、といった点で現状を正確に認識する事が重要です。

Ø また、コンプライアンス意識の醸成のための教育・研修は定期的に実施されているか、教育・研修プログラムには不正を理解するためのコンテンツが含まれているか、といった点でも再確認が必要です。

Ø 更には、中国現法の内部通報制度が有効に機能する状況であるか確認しておく事を推奨します。