【2025年10月】配当利益を用いた再投資にかかる、更なる優遇措置~配当利益の源泉課税の繰延に加え、税額控除の適用が可能に~

PDF版はこちら →China Info JPマイツ通信 2025年10月号

 

中国現地法人の配当利益を用いた再投資に関しては、以前より優遇政策があり、再投資の原資となる配当金の源泉課税(10%)が繰延されます。同政策は当初の財税「2017」88号[i]等では奨励類投資項目への直接投資に限定していましたが、財税「2018」102号[ii]以降、禁止類を除く全ての再投資項目に適用されています。

今般、2025年6月27日付け「外国投資家の配当利益による直接投資への税額控除に関する公告」(財政部・国家税務総局・商務部2025年第2号公告、以下“第2号公告”と表記)[iii]が公布されました。第2号公告は時限的、且つ奨励類項目への投資に限定した優遇政策とはいえ、上述の配当利益を用いた再投資の源泉課税の繰延に加えて、更に、再投資以降、日本本社に課される企業所得税に対して税額控除が適用できる為、従来よりも優遇措置を享受するメリットが増しています。

この為、本稿では第2号公告の概要に加えて、当該優遇政策のスキーム事例や留意事項について説明します。

 

1.第2号公告の概要

財税「2018」102号等の優遇政策は、本来、日本本社が配当利益の受領時に源泉課税されるはずの税金が繰延されるだけであり、再投資企業の清算、持分譲渡等による撤退(投資の回収)時には、当該繰延された税金の支払いが必要です。

しかし、下述の通り、第2号公告では、202511日~20281231日と時限的とはいえ、再投資以降、日本本社が受領するであろう、配当利益やライセンス使用料等に課される企業所得税に対しても税額控除が適用可能となり、納税金額の実額も減少できるなど、特筆すべき内容と考えられます。

主要内容は、以下の通りです。
  1. ➢対象期間と対象者:2025年1月1日から2028年12月31日までの間に、中国居住者企業(現地法人)からの配当利益を中国への直接投資に充当する一定条件を満たす外国投資家(日本企業等)
  2. 対象優遇政策:再投資額の10%を当該年度の要納税額から控除可能。控除しきれ無い場合、繰越可能 (更に、適用期間経過後も、控除額がゼロになるまで控除可能)
    ➢ 外国政府との租税条約において、配当利益等の権益性投資に対する適用税率が10%未満である場合は、当該条約に定める税率を適用する等
  3. (➾日中租税条約では配当利益、使用料に対する課税は10%であり、当該条項には該当しない)

次に、当該政策の適用に求められる一定条件は以下の通りです。

  1. ➢中国居住者企業への払込資本金または資本準備金の増加
    ➢中国居住者企業の新規設立の出資
    ➢中国居住者企業の持分を非関連者からの取得

更に、優遇享受には以下等の条件があります。

  1. ➢再投資期間中、再投資先企業は「外商投資産業目録」の奨励類に該当すること
    ➢当該再投資企業の、少なくとも5年間(60ヶ月)の継続保有が必要
    再投資に用いる配当利益は分配企業(現地法人)の口座から投資対象企業/持分譲渡者の口座に直接振替が必要(直接投資前に(本社への送金等の)他の国内外口座の経由不可)。
  2. もし直接投資に充当する利益が現物出資等の非現金で支払われる場合、利益分配企業から投資対象企業或いは持分譲渡者に、当該資産の所有権を直接移転する必要あり(同様に直接投資前に他に経由は不可)

 

2.投資回収(撤退時)の取扱い

投資回収時、当該出資持分の保有期間が5年(60か月)経過後か5年未満かにより納税対応が大別されます。

  1. ➢当該税額控除の対象持分の保有期間が5年(60ヶ月)経過後に投資回収
  2. 投資回収後7日以内に、(再投資時の)配当利益に係る繰延税額を、利益分配企業の所在地税務機関に申告しなければならないが、(本)税額控除の繰越残高があれば、相殺が可能。
  3. ➢当該税額控除の対象持分の保有期間が5年(60ヶ月)未満に投資回収
  4. (再投資時の)配当利益は、本公告に定める税制優遇措置の対象外と看做される。外国投資家は、(再投資時の)繰延税金の納付に加え、当該外国投資家が利用できる税額控除額を比例減額しなければならない。外国投資家が既に税額控除額の控除調整額を超えて控除した場合、当該外国投資家は投資回収後7日以内に超過控除部分の税額を納付しなければならない等。

 

3.その他

もし日本本社が第2号公告による税額控除政策を享受後、投資先企業に企業再編が発生し、特殊税務処理を実施した場合にも、当該税額控除政策を享受できる、としています。

また、外国投資家が2025年1月1日から本公告の公布前までに当該要件を満たす投資を実行した場合、公布日から遡及して税額控除の申請や、また第2号公告の公布後に発生した納税額と相殺可能、と規定しています。

 

4.スキーム事例:

S社の配当利益100を同社に再投資し、5年経過後に投資回収(撤退)したスキーム図は以下の通りです。

 

5.留意事項及びまとめ

上記は、奨励類項目への再投資且つ現地法人口座から再投資先へ直接送金(若しくは振替)との形式が求められ、且つ、原則、5年間以上の継続保有が求められる点には、留意が必要です(同期間を下回ると前述の通り、税額控除額を比例減額しなければなりません)。
しかし、従来の再投資時の繰延(撤退時には要納税)とは異なり、再投資後の期間内において、本社に課税される企業所得税(例:配当所得・利息所得・特許使用料所得に対する源泉課税)から再投資額の10%まで税額控除を適用できる為、納税額自体を減少できます。若しくは期間中の当該税額控除を享受しない場合には、投資回収時の繰延税額との相殺に活用できる為、当該投資を計画されている企業、若しくは直近に当該投資を実施された企業におかれましては、本政策の積極活用の検討をお勧めします。

 


 


[i] 原文URL:国家税务总局政策法规库

[ii] 原文URL:国家税务总局政策法规库

[iii] 关于境外投资者以分配利润直接投资税收抵免政策的公告_国务院部门文件_中国政府网