【2025年9月】~欠損補填を目的とする無償減資、三項基金が残存する場合の取扱い等、会社法(2023 年改正)の移行措置が明確化~

PDF版はこちら →China Info JPマイツ通信 2025年9月号

 

会社法(2023年改正、以下“改正会社法”と表記)[i]では、機関設計や出資払込期限を含む出資義務の厳格化、株主や個人に対するリスクと責任の増大等、大幅な改定が盛り込まれました[ii]。更に、欠損補填を目的とする無償減資が資本準備金の取崩しや減資の手順と共に容認された点も重要な改定といえます。

しかし、後者については、その後、補充規定が公布されず、具体的な手順が明確化されていない上に、税務上の取扱いの変化の有無も不明の状況でしたが、今回、「会社法、外商投資法施行後の関連財務処理に関する問題の通知」(財2025101号、以下“本通知”と表記)[iii]の公布に伴い、無償減資の手順の明確化が進みました。

更に、本通知では2024年12月末を以て移行措置が終了した外商投資法[iv]の全面施行に伴う中外合弁企業法等の過去の経緯により存在していた、三項基金の解消方法等についても明記するなど、会社法(2023年改正)及び外商投資法に関連する移行措置を財務処理面から明確化した重要通知と言えます。

本稿では、これら2項目に加えて、現物出資に係る条項も加えた、本通知の概要を解説すると共に、無償減資に係る留意点や三項基金への実務対応を説明します。

 

1.本通知の概要

本通知は、以下3項目から構成されており、 公布日(2025年6月9日)と同日に施行されています。

  1. (1)積立金による損失の補填問題について
  2.  まず、改正会社法(第214条)に従い、会社が積立金/準備金(中文:公積金)を用いて損失補填する場合、前年(2024年以前)の会社の監査済み個別財務諸表に基づき、期末未分配利益のマイナス分をゼロまで補填することに限定します。また、当該補填は任意積立金>法定準備金の順で行い、それでも補填しきれない場合に、以下により純増した資本準備金にて補填を可能とします。
    ➢通貨、或いは物的財産、知的財産権、土地使用権、株式、債権などの、貨幣価値として評価且つ法的に譲渡が可能な非貨幣財産による出資を受けた場合
    ➢債務返済、債務免除、または金銭、現物、知的財産権、または土地使用権の寄付との形式により資本性投入を受けた場合

    当該資本準備金のうち、(例えば、出資時の為替レートの差異により生じた場合など)特定の出資に限定された資本準備金は、所有者(特定の出資者)の同意がない限り、損失補填に使用できず、また条件付きで増額された資本準備金額が変わる場合には当該金額の確定後にのみ損失補填が可能です。

  3.  また、当該補填手順は、同補填計画を策定(状況、損失補填の理由、及び補填に用いる積立金/準備金の原資、金額、方法を説明)し、董事会にて決議案を作成➾株主会(若しくは株主など)の審議、決議を要し、また株主(会)決議日より30日以内に債権者に通知或いは公表して債権者保護を図る等も要求されます。
  4.  尚、資本準備金による損失補填は、財務諸表の「未分配利益」項目下に、資本準備金による損失補填額を別途開示する必要があります。
  5. (2)非貨幣資産を用いた資産評価、出資の問題について
  6.  改正会社法(第48条)では、貨幣資産に加えて、現物、知的財産権、土地使用権、持分、債権等の貨幣換算評価が可能且つ譲渡可能な資産を評価、現物出資を認めています[v]。本通知では、“株主が現物出資を受ける場合、当該資産評価は財企[2009]46[vi]の関連規定に則り実施、且つ設立、増資、合併、分割等の関連規定に従い内部意思決定手続きを履行しなければならない”、また、当該現物出資は“資産の特性を考慮し、権利の実現に影響する可能性のある要因を十分に検討する必要があり、必要に応じて法律意見書を取得できる”旨などを定めています。
  7. (3)準備基金、企業発展基金、従業員奨励福利基金の残高について
  8.  まず、歴史的経緯として、外商投資法の施行以前は、外資三法[vii](中外合弁経営企業法、中外合作経営企業法、外資企業法)が、会社法に重畳的に、且つ会社法と差異がある条項は優先的に適用されていました。
  9.  この為、外商投資(外資企業、中外合弁企業、中外合作企業)の別により、準備基金、企業発展基金、従業員奨励福利基金の強制積立、若しくは任意積立が求められていました。このうち、特に実例が比較的多く且つ会社法と比較的大きな乖離が見られた中外合弁企業では、外商投資法の施行により外資三法等の廃止後も、企業発展基金、従業員奨励福利基金の積立がある企業も未だ見受けられます。
  10.  本通知では、以下の通り、2025年1月1日以降は積立をせず、且つ、当該残高も振替/解消します。
  11. ➢外商投資企業は、会社法の規程に則り、法定準備金、任意積立金を積立する。
    1. ✔準備基金の残高は、法定準備金に振替して管理、使用する。
    2. ✔企業発展基金の残高は、任意積立金に振替して、管理、使用する。
    従業員奨励福利基金は、積立時に決定した用途、使用条件、手順に従って、使用する。(清算時には、財企「2006」67号、財工字 [1995]222号に従って、処理する。)

    すなわち、準備基金や企業発展基金は企業に帰属する為、現行の会計勘定科目に振替し、従業員/工会への債務/帰属となる従業員奨励福利基金は用途と関連規定に従い、支出により残高をゼロにします。
    実務的には2025年度中に準備基金や企業発展基金を振替し、当該残高を解消します現地法人自身で月次記帳を行うケースでも、速やかな適切な処理が望まれます。

 

2.無償減資の取扱いに係る留意点

まず、会計上の仕訳例を提示します。本通知に則り下記➀~③の順に、会計上の欠損解消まで補填が可能です。

例:払込資本金500 / 法定準備金150 /  任意積立金50  / 資本準備金50  / 会計上の欠損230
<借方>    ①任意積立金   50                      <貸方> 未分配利益 230
        ②法定準備金 150
                                ③資本準備金   30

一方、税務上は未だに関連規定の公布が無く、従来の税務当局見解及び規定に則れば、(有償減資と同様に生じるはずの出資者への払戻しが無く、出資者からの贈与と看做される可能性により)企業所得税法上の債務免除益(益金)となる可能性があり、税務上の繰越欠損金の範囲内ならば納税は生じないものの留意が必要です[viii]

 

3.まとめ

減資は、手続き的には有償減資も含めて既に届出事項となり、事例が散見されますが、上記の通り、税務上の関連通達は未だに公布されていない状況です。特に無償減資では益金として処理される可能性は存続しており、今後の税務通達も含めた注視と留意が必要です。

また中外合弁企業など、三項基金の残高があるケースでは解消の必要も生じますので、適切な対応が求められます。

 

 


 


[i] 同法の原文は右記URLの通り。URL:中华人民共和国公司法_中国人大网 (npc.gov.cn)

[ii]マイツグループのニューズレター右記URLの通り。URL:ニューズレター アーカイブ| 株式会社マイツ (myts.co.jp)

尚、本改正までの審議内容はJPマイツ通信2022年2月号(初稿)、2023年4月号(二稿)、2024年1月号(三稿)を、本改正については、同2024年2月号、2024年8月号等を参照願いたい。

[iii] 关于公司法、外商投资法施行后有关财务处理问题的通知

[iv] 原文URL:中华人民共和国外商投资法_滚动新闻_中国政府网

[v] その他詳細は改正会社法の同条項を確認のこと。

[vi] 财政部 工商总局关于加强以非货币财产出资的评估管理若干问题的通知财企[2009]46号-会计审计-中资资产评估有限公司

[vii] 外資三法については、JPマイツ通信(2019年11月号)大連通信(2023年5月号)等を参照のこと。

[viii] 詳細な解説はJPマイツ通信2023年9月号を参照のこと。